SLPY

もしもローゼンメイデンがARMSだったら


http://yutori.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1203169088/
1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 22:38:08.12 ID:YE46vJQoO
急患用の白い廊下を 黒い学生服の少年が担架で運ばれていく。

奥から出てきた担当医が駆け寄り、患者の顔を覗く。
担ぎ手の救急隊員と並走しながら落ち着かない調子で質問した。

「救急車の中でも吐いていたのか?」

「ええ、つい先ほどまで」

少年の口元にはどす黒く変色した血糊があり
まだ、それは乾いていない。

「この血の色だと胃潰瘍だろうが、いかんせん吐きすぎだな。
 ショックを起こしかけている。輸血が必要か」

瞳孔は開き気味で、目の焦点も合っていない。
おそらくは意識も混濁しているであろうと医者は判断した。


2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 22:45:26.09 ID:YE46vJQoO
しかし、少年には担当医や救急隊員達のやり取りは聞こえていた。

(胃潰瘍?僕が? 嘘だろ、今朝までなんともなかったのに。
ああ、でもそうだ。血を吐いたんだ、たくさん。
体が動かないし、しゃべれもしない。それに寒い、すごく)

手術室の扉が開いた時、医師達のものではない声が聞こえた。

『チカラが欲しい?』

男ではない、女の、それも小さな子供の声のようだった。
ようだった、というのは声の主が見えなかったからだ。

(チカラ?)

あたりをうかがっても、医者達以外の気配は無い。
けれども、声は再び響いた。彼の頭の中に。

『チカラが欲しいのならマきなさい』


3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 22:54:06.32 ID:YE46vJQoO
PHASE1:ファントムブラッド


春。僕、桜田ジュンは地元の高校に進学した。

僕は中学生の頃、【ちょっとしたトラブル】を抱え
そのせいで半年ほど不登校になったことがある。

だが、高校ではそんな破目にはならないよう決意したのも束の間
新学期の平穏は一月ともたなかった。

校舎裏で三名の男子生徒が自分を囲んでいる。
傍目にはカツアゲか何かのように見えるかもしれないが、そうではない。

「だ、大丈夫!? 桜田君!? 凄い量だよ!!」

三人の内の一人が心配そうに問いかけている。



4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 22:55:34.41 ID:YE46vJQoO
「へ、平気平気!! ちょっと鼻血癖があってさ」

手のひらで鼻を覆いながら気丈に振舞う。
別の中学出身の子達と仲良くなったのはいいものの
彼らが昼休み時間に【いいもの】を見せてやると言うから
校舎の裏について行ってみれば、なんと【エロ本】であった。

「つーか、今時エロ本で鼻血って…逆に凄いな」

もう一人はシーラカンスでも見ているかのようにそう言った。

「感心してる場合かよ!! もう一リットルぐらい出てるぞ!! やばくね!?」

残る一人はかなり慌てている。
おそらくこれだけの量の血が流れるのを見たのは初めてなのだろう。


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 22:57:43.07 ID:YE46vJQoO
【ちょっとしたトラブル】とはこれだ。
僕は人よりもほんの少し(?)血の気が多い。
性格的な意味ではなく、物理的な意味で。

少しでも興奮すると鼻血だ。ひどい時には耳血や吐血まですることがある。
また、その時流れる血の量が半端じゃない。ギャグ漫画なみだ。
初めて見る人は大概ひくし、気の弱い女の子を失神させたことすらあった。

「くそっ!! 止まれ止まれ!!」

自らの鼻の穴に指を突っ込んでも
隙間から水鉄砲の原理で勢いが増した血が飛ぶばかり。
焦りを隠せない僕に対して一人の級友が質問した。

「こんな状況でなんだが、今ある噂を思いだしたんだ。
お前ってもしかして流血お…」

「ちょ、ちょっと保健室行ってくる!!」

折角出来たばかりの級友の言葉を遮り、僕は保健室へ逃げ込んだ。


7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 23:02:09.51 ID:YE46vJQoO
「おはよう」

あまり感情のこもらない声で柏葉巴はそう言った。
寝起きの僕には、いったい何故彼女がここにいるのか分からない。

昼休みに保健室に来たときは誰もいなかった。
だから勝手にベッドで休ませてもらうことにしたのだ。
先生が来たら貧血とでも説明しようかと考えていたら
眠ってしまったらしく、目覚めた時はもう陽が傾いていた。

気がついて、かなりの時間が経っていたことよりも
ベッドの隣の椅子に腰掛けていた柏葉巴に驚いた。

彼女はいわゆる幼馴染というやつであり、中学も一緒だった。
当然、僕の【ちょっとしたトラブル】については熟知している。


8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 23:05:07.83 ID:YE46vJQoO
ショートカットで、左目の泣きぼくろが少し特徴的なことを除けば
どこにでもいるような女の子。
それがゆえにひときわ目立つのはいつも携えている竹刀袋。
確か小学生で剣道を始めた頃から同じ竹刀を使っている。
本人曰く「親にやらされている」そうだが、嫌がっている風には見えない。

それはともかく、放課後になってから随分と時間が過ぎている筈だ。
ずれたメガネを直しながら「一体いつから?」「て言うか起こせよ!」などと
どう声をかけようか、考えあぐねているうちに「おはよう」と言われてしまった。

「高校生活早々、鼻血で倒れるなんてね。いったい何があったの?」

僕の動揺などお構い無しに柏葉巴は言葉を続ける。
そして、枕や彼の鼻、頬についた血を指差した。

どうやら寝ている間にも少し鼻血を流したらしい。


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 23:07:20.81 ID:YE46vJQoO
「べ、別になんでもないよ!! それより
なんで僕がここ(保健室)にいるって分かったんだ?」

「それは…あれだけ高校生活は薔薇色にするんだと息巻いてた
桜田君がいきなり授業をボイコットするなんておかしいじゃない。
それで多分ここだろうと思ってきたら、案の定」

顔についた血を拭いながら質問を続ける。

「…クラスの皆にはもう僕のことばれたのかな?」

「一応はまだばれてないわ。でも時間の問題ね。
私以外にも同じ中学校の子は沢山いるんだし」

「やっぱり無理してでも遠くの高校の方が良かったかな」

「ノリさんを独りにするつもり?」

「言ってみただけだよ…」


11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 23:11:42.40 ID:YE46vJQoO
コンコンとノックの音が響いた。その後に「失礼します」という声。
そして見覚えのある顔が入って来た。あの三人の級友だ。

「あ、やっぱりまだいたんだ。桜田君、調子はもういいの?」

「柏葉さんも一緒なのか。なんか邪魔したかな?」

間髪いれず、僕は否定した。

「おい!!そんなんじゃないって!!」

エロ本とかを校舎裏に無造作に置いとく連中なのに
変なとこには頭が回るものだ。

「いや、ちょうどいいや。確か柏葉さんも桜田と同じ中学だったよな。
ならこれからする俺の質問にも答えられるはずだ」

校舎裏で噂を思い出したと言った友人だ。
その噂とは、確実に僕の【ちょっとしたトラブル】のことに違いない。

何とか口裏を合わせてごまかすようにと柏葉にアイコンタクトを取った。

彼女はコクリと小さく頷いた。
さすが幼馴染み。何も言わなくても通じる。そこに痺れる、憧れる。

「第二中学の流血王子のことかしら?」

開口一番、彼女は禁句を発した。


12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 23:16:21.95 ID:YE46vJQoO
「うぉい!!」

思わず僕は声を荒げた。
そうだ、こういう奴だった。おとなしくて従順そうに見えても
自分でこうだと思ったことならためらわず発言、行動する。
進学前にも【流血王子】は絶対に言うなと念を押してあったのに。

「桜田!! 鼻血鼻血!!」

友人の指摘でまた鼻血が流れ出したことに気付いた。頭に血が上ってもこうなる。

「やっぱり桜田が…そうなんだな?」

鼻血を指摘した級友の隣で、
先ほどの質問者の表情が確信めいたものに変わった。

完全に僕の秘密がばれてしまった。

「柏葉、どういうつもりだ。これで僕の高校生活はお終いだ!!
僕はただ【普通】に高校生として…」


13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 23:21:13.88 ID:YE46vJQoO
怒りをあらわにする。ただ鼻をつまみながらなのでいささか滑稽ではある。
しかし柏葉は事も無げに言い返した。

「それはやっぱり無理なのよ。桜田君の言う【普通】は
他人があなたを興奮させないという前提で成り立っている。
何も知らない人がそんなこと守ってくれると思う? いずればれるわ。
ならいっそ、さらに変な噂が広がる前に真実を話しておくべきじゃない」

「それでどうにかなるものか!!」

怒りはおさまることをしらなかったが
そこに今度は男子生徒が口をはさんだ。

「勘違いしないでくれよ、桜田。別にお前が流血王子だからって
俺達はいじめようとかそういうのじゃないんだよ。
ただ、もしそうなら昼休みの時間のこと…謝ろうと思って…」

予想外の言葉に、僕の怒りは風船がしぼむかのように薄れていった。
ただ、鼻血はその風船から抜ける空気のごとくまだ流れている。

「昼休み?」

「いや!! 柏葉さんには関係無いよ!! こっちの話!!」

柏葉が昼休みという単語に興味を示すと、三人組は光の速さで話をごまかした。


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 23:28:24.33 ID:YE46vJQoO
「そう、まあいいわ。で、あなた達は流血王子の噂をどこまで知ってるの?」

「どこまで…て言われても、
第二中学に些細なことで血を吹きまくる奴がいたって…」

「やっぱり噂なんてそんなところね。
いいわ流血王子誕生秘話を教えてあげる」

もう、この幼馴染を止めることはできない。
鼻血だけでなく、ため息も自然に出てきた。

「おいおい…」

「桜田君は黙ってて。中途半端にしか情報が伝わってないから
他人が尾ひれはひれをつけたり、異常に興味を示したりするのよ。
全てを知れば熱も冷めるわ。幽霊の正体見たり枯れ尾花って言うでしょ?」

「僕は幽霊でも枯れ尾花でもないぞ」

幼馴染はツッコミを無視して昔話を始めた。


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 23:31:23.62 ID:YE46vJQoO
『あの服を考えてくれたのは桜田君です!!』

『素晴らしい才能です!!』

「全ては中学校の時の担任、梅岡先生の行動が原因なの。
桜田君は昔から裁縫とか洋服のデザインとかが好きだったんだけど
それを少女趣味だと恥じて表には出さなかった。
でもある日、うっかりノートにクラスの(私じゃない)女の子の
洋服のデザインを妄想して書いたまま提出してしまう。
ノートを梅岡先生は、なんと掲示板に張り出した。
ただ、その時はまだ桜田君の名前は出さなかった。
桜田君の名前が出たのは体育館での全校集会でだった」

「…」

級友の一人が絶句している。信じられないといった面持ちだ。

「すっげ!! マジ話!? 今の」

「さすがの俺もそれはひく」

残りの二人もそれぞれなかなかのリアクションを見せてくれた。

「大マジよ。そしてついにここからがいいところ。流血王子爆誕よ」

心なしか柏葉のテンションが上がっている気がする。
あんまり饒舌なキャラじゃないと思っていたが
こいつ本当は喋りたくてしょうがなかったんじゃないだろうか。


17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 23:35:20.44 ID:YE46vJQoO
『あの服を考えてくれたのは桜田君です!!』

『え〜っ!!』『うそ〜』『マジマジ!?』『きんもーっ☆』

「全校集会はちょっとした興奮のるつぼと化し
視線は全て桜田君へと注がれた。と同時に彼の身に異変が起きた」

『うわあああああああああらばっ!!』

『ッ!! 桜田が吐い…血!? 血だ!! 桜田が血を吐いた!!』

「私達をまた異質な興奮が包み込んだ」

『あばばばばばばばばば!!』

『どうした桜田!? 何故だ、何故吐くんだ!?』

「梅岡先生には何が起きたのか分からない。
いや、事態を正確に把握できている者など、その時その場には誰もいなかった」

『おい、痙攣してるぞ!! 救急車だ!! 早く!!』


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 23:37:59.07 ID:YE46vJQoO
無かったことにしていた過去だが僕にはどうすることも出来ない。
鼻のこよりを取り替えながら聞きたくも無い昔話を続ける幼馴染を睨んでいた。

「失神する生徒4名及び教師1名、何故かもらいゲロする生徒9名。
全校集会は一瞬にして阿鼻叫喚となった」

「いや、でも分かるよ桜田君の気持ち」

「そりゃ血も吐きたくなるわな」

「病院で輸血してもらって何とか一命を取り留めたんだけど、
桜田君は確かRhがプラスだかマイナスだか…
割と珍しい血液型で、その時、血が不足していたの。
ね、何ていう血液型だったっけ?」

柏葉は助け舟を求めたが、そんな気分ではない。
ぶっきらぼうに応じる。

「…忘れたよ」


19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 23:43:04.25 ID:YE46vJQoO
「ま、とにかく絶体絶命だったんだけど、
当時最新の人工血液で桜田君は助かった。
ついでにお医者さんがサービスして沢山輸血してくれたせいで
桜田君は些細なことで血を吹くようになった。
そして誰が言い出したやら【流血王子】という伝説が生まれたの」

「サービスとか適当なこと言うなよ」

存外、お粗末な話の締め方に文句を言ってみたが
この説明で級友達は納得したらしい。謝罪をしてくれた。

「これからはまあ、過剰にはならない程度に気をつけるよ」

「…ありがとう」

「今度はもっとソフトなやつにするよ」

「お前は何も分かってない」

友達と冗談に興じていると喋り足りなかったのか柏葉が口をはさんだ。

「…まだもうちょっとエピソードあるんだけど、聞く?」

「うぉい!!」

女を殴りたいと思ったのは生まれて初めてだ。
だが聞く気マンマンの三名と、話す気マンマンの一名。
どうしようもないことは明白だった。


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 23:47:06.19 ID:YE46vJQoO
1.体育館の床の血痕は梅岡先生がいくら拭いても消えない。
  むしろ梅岡が拭くとさらに濃くなる。
  おまけにその血痕は苦しむ桜田君の顔にそっくり。
  虎眼先生もびっくり。
  中学の七不思議(大抵四つぐらいしかない)のひとつを任されるほどに。

2.鼻血が止まらなくて半年不登校。その後も保健室登校がしばらく続いた。

3.どう見ても桜田君の体より多い量が出ていることがある。
  人はこれをゼニガメ現象という。不審火を消したことも。

4.どこで噂を聞きつけたのか、ある日桜田君目当ての献血車が校庭に乱入。
  それを見つけた時の生徒達のテンションは
  野良犬が校庭に迷い込んだ時の三倍に膨れ上がった。
  (勿論、桜田君は献血を拒否した。)


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/16(土) 23:49:33.72 ID:YE46vJQoO
5.卒業式、何も知らない一年生が桜田君の第二ボタンをせがんだところ
  興奮した桜田君が放出した鼻血の海に沈められた。
  またその時そばに生えていた桜の木が血を吸ったらしく
  以来ピンクではなく真紅の花を咲かせるようになった。
  不気味に思ってその木を切ろうとすると、
  血のように赤い樹液が大量に出てどうしようもないという。
  これまた【吸血桜】として七不思議のひとつになった。

6.女性には触れられただけで鼻血を吹く。
  触っても無事なのは幼馴染みの私(柏葉巴)と
  ただ一人の肉親である姉のノリさんのみ。



「いや、まあ、本当大変だったんだな」

友の声が震えている。

「真実が聞けてよかったよ」

こいつは目に涙さえ浮かべている。

「とにかくこれからも友達としてよろしブフゥ!!」

ついに吹き出しやがった。笑えよベジータ。


24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 00:08:16.62 ID:29nqzaeM0
どこがARMSだw


25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 00:19:08.71 ID:cgYQg15eO
PHASE2:今私の願い事が叶うならば


初夏。私、柿崎めぐは今まで住んでいた町から遠く離れた高校にやってきた。
目的があった。人を探してわざわざやってきたのだ。

「今日は転校生を紹介する」

朝のHR。
老境ではあるが背筋の張った担任の男性教師が皆の注意を引き、こう言った。
すぐさま三名の男子生徒が反応し、雑談を始める。

「珍しいね、こんな時期に。もうすぐ夏休みじゃないか」

「美人な女子だといいな、なぁ桜田」

「あんまり美人だと逆に困るだろ、桜田は」

三人は桜田ジュンに意見を求めるも、彼の返事はそっけなかった。

「まぁね」

「ものすごい生返事。ホントこういう事には興味ないのな、お前」

「ほらそこ静かに。それじゃあ柿崎、自己紹介を」

教師の一声で静けさを取り戻した教室の壇に、私は招かれた。

「柿崎めぐです。よろしくお願いします」


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 00:23:11.43 ID:cgYQg15eO
転校生らしく、しおらしく会釈をする。にわかに教室はざわめきたつ。

「ロングヘアーのべっぴんさんじゃないか」

「お前は親戚のおじさんか。でも確かに美少女だ」

「…惚れた」

男子の茶化すような声、その後、女子のよろしくと応える声。

私は教室を見回した。このクラスに自分の探し人がいる。
漠然と距離だけは分かる。だが誰が『当たり』かは分からない。
しかし見つけ方は簡単だ。眼さえ合わせれば分かるはず。
ひととおりクラスメイト達と眼を合わせる。当たりは見つからない。

一人だけずっと眼を合わせない男の子がいた。
さっき桜田…と呼ばれていた、眼鏡を掛けた小柄な子だ。
背はもしかしたら自分より低いかもしれない。

しばらく視線を送っているとやっと向こうもこちらを見た。
…とほぼ同時にマーライオンのように鼻血を吹き始めた。

「おっぱっぴーーーーーーーー!!」


27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 00:26:04.08 ID:cgYQg15eO
どこぞの芸人のような奇声を発しながら血を吹くその姿に私は少し面食らったが
周りの生徒は至って落ち着いていた。

「せんせー、また桜田君が鼻血吹いてます」

「あーあ、出た出た、また。 しかし女の子の顔見ただけで吹くとか、どんだけ」

担任も、また慣れた様子で説明した。

「久々の大ヒットだな。いや、柿崎気にすることは無い。桜田はああいうヤツだ」

「…ビンゴ」

探し人を見つけた喜びに、思わず声を漏らしてしまった。
教師が怪訝そうに問う。

「柿崎?」

「あ、いえ。すいません何か私のせいで。桜田…君が大変なことに」

桜田ジュンの机に詰め寄る。
他の生徒達が近づくとダメだとジェスチャーしているが無視。
彼の机の足元に【シャア専用】と書かれたポリバケツを見つけた。
よく見ると【ジュン専用】ともともと書かれていたのに
誰かがマジックでうまいこと上書きしたらしい。
外側は普通の青いポリバケツだが
内側は今まで何度も血を貯めていたらしく、赤黒くなっていた。


28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 00:29:42.86 ID:cgYQg15eO
「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー」

桜田君はもはや人語を喋っていなかった。目の焦点もうつろだ。
しかも鼻血の勢いは私が彼に近づくにつれ強くなる。

「ごめんなさい。良く分からないけど私のせいなのよね、その鼻血」

ハンカチを取り出し、彼の鼻を拭う。

「うわあああ、【触れ】やがった!! もう駄目だァーッ!!」

「こりゃ、誇張抜きに血の雨が降るな」

「柿崎さん逃げてえええええええ!!」

クラスメイト達のおびえっぷりとは裏腹に鼻血は止まった。
勿論、私が止めたのだ。

それを見てた生徒達に今度は驚きの波紋が広がる。

「止まった!?」

「嘘、凄い!! 以前私がうっかり触ったときなんて、鼻血の勢いで桜田君飛んだのに」

担任教諭が詰めかける。

「ど、どうやったんだ柿崎!?」

「いえ、少し家庭の医学に詳しいものですから…」


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 00:34:59.41 ID:cgYQg15eO
「家庭の医学? 保健医でも止められなかったんだぞ」

老教師の言葉を遮り、意識を取り戻した桜田ジュンが素っ頓狂な声を上げた。

「あ…あれ!?」

「気が付いたみたいね。ごめんなさいね、私のせいで」

「あ!! い、いや!! こちらこそ…その、なんかゴメン」

そこへ始業のベルが鳴った。想定外の事態に時間をとられた担任は場を取り繕い
転校生への説明を駆け足で済ませる。

「まあ、なんだか知らんがとにかく良し。柿崎の席はそこの柏葉の隣…
そう、そこの空いてるところだ。柏葉、今日は教科書を見せてやってくれ」

「は…はい。よろしく、柿崎さん」

「よろしく、柏葉さん」


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 00:37:24.64 ID:cgYQg15eO
柏葉巴は一連の騒ぎを呆然と眺めていたが、当事者が隣に来たのだ。
当然の質問を投げかけた。

「それにしても驚いたわ。どうやって止めたの? 桜田君の鼻血」

「フフ… 秘密」

老教師と入れ違いに入ってきた一時限目の担当教員が授業の準備を始める。

「それじゃあ、始めるぞ。教科書128ページを開いて…」

彼女は教科書を取り出しつつも、質問をすることは止めなかった。

「彼に触れてもなんとも無いのはお姉さんと幼馴染だけなのよ」

「もしかしてその幼馴染って…あなた?」

私は適当に言ったつもりだが図星だったらしい。
桜田君の幼馴染とやらは声を詰まらせた。
何か次の話題をと思い、あたりに目を走らすと、あることに気付いた。

「あら、柏葉さん。教科書が逆さよ」


31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 00:39:21.52 ID:cgYQg15eO
その日の放課後、早速クラスのリーダー格の女子及び
その取り巻きらしき数名に校舎裏に呼び出された。
桜田ジュンをターゲットだと確認するためとは言え
自分はいささか派手に振舞いすぎたのだ。

「あなた…ちょっと転校生の癖に目立ちすぎじゃなくて?」

リーダー格が凄みを利かせているが涼しげに応じる。

「転校生だからよ。三日もすれば目立たなくなるわ」

「…それと桜田君にちょっかい出さないでくれる」

「桜田君? あの鼻血の。ああ、そういうこと。結構可愛いものね、彼。
小動物系? しかも血を吹くという面白い芸もある。
あなた達のちょっとしたオモチャってトコかしら?」

「言わせておけば!!」

リーダー格が平手を振りかぶる。
と同時に誰かがこちらに駆けつけてくる足音がした。

どうしようか、自分の力ならこの平手を避けようと思えば簡単に避けれる。
しかし、これ以上、彼女達の神経を逆なでするのも面倒だ。
一発殴られて済むのなら、それで…


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 00:41:03.19 ID:cgYQg15eO
「柿崎さんが校舎裏に呼び出されただぁ?
今時、そんなレトロなこと不良でもしないぞ。全く女子ってヤツは…」

柏葉巴に袖を引かれながら、桜田ジュンは不平を漏らす。

「いいから早く来て。桜田君の言うことならあの子達も聞くはずだから」

「分からないさ。あいつら僕をペット扱いしてるからな」

「桜田君…鼻血が!!」

「え? あ、あれ、どうして!?
今日は柿崎さんに鼻拭かれてからずっと止まって…
それに今は何にも興奮なんかしてないのに」

「…とにかく鼻血出しながらでいいから一緒に来て、そこの角曲がったところよ」


33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 00:42:56.84 ID:cgYQg15eO
覚悟を決めて目を閉じた。痛いのは一瞬だ。
しかし平手はいつまでたっても到達しなかった。
次に目を開けたとき自分は学校の屋上にいた。

校舎裏から四階建て校舎の屋上まで、
平手が到達する一瞬より速く移動したことになる。

「あなたの仕業ね。こんな時ばかり勝手に出てきて」

諭すようにつぶやく。だが屋上には自分だけである。
もし誰かがいて今の私、柿崎めぐを見ていたとしたら
独り言を言っているアブない子に見えただろう。

しかし、このつぶやきに答えるものがいた。他でもない私の体の内側から。

『わざと顔をぶたせるなんて馬鹿じゃないの』

「あなたがぶたれるわけじゃないのに」


34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 00:43:07.14 ID:29nqzaeM0
白ラン番長じゃないか


35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 00:47:43.11 ID:cgYQg15eO
『何度言わせれば分かるの? あなたは私、私はあなた。
それよりも見られていたわよ。あの坊やに』

屋上のフェンスから下を覗いてみると
私を殴り損ねたスケバン達が右往左往していた。
少し離れたところにさらに二人、あれは柏葉巴と桜田ジュン。
さっき近づいてきた足音は彼らだったのか。
柏葉さんは女子達に詰め寄ると何事か話し始めている。
おそらく今何が起きたのか問いただしているのだろう。

一方、桜田君は屋上にいる自分を見上げていた。
あふれ出る鼻血を止めようともせず静かに私の目を見据えている。
そして何事かつぶやいた。
声は聞こえなかったが、唇の動きからなんと言ったかは想像できた。

「翼だ」


37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 00:50:17.53 ID:cgYQg15eO
それから彼が屋上にやってくるまで10分とかからなかった。

「柿崎…」

神妙な面持ちで桜田ジュンが詰め寄る。
柏葉巴は付いてきていない、彼一人だ。

「あら、桜田君。また鼻血が出てるわよ」

「鼻血なんかどうでもいい、それよりも聞きたいことが…」

「血まみれの男の子に質問されても楽しくないわ」

ささっと手をかざすと、彼の鼻血はぴたりと止まった。

「止まった!? いや止められた!? 今度は手も触れずに!?」

「ご希望ならもう一度出させてみましょうか」

今度は強くにらみつけた。
途端、彼から鼻血が華厳の滝のように流れ出した。

「う…ッ!?」

「面白い。全く自分では制御できてないのね。
女の子達にオモチャ扱いされるはずだわ」


38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 00:52:45.28 ID:cgYQg15eO
「ぐ…ぷぶ…な、なんなんだよいったい!?」

もう少し、この血の詰まった皮袋をからかっていたかったが
自分の中のもう一人が、これ以上待ちきれないといった感じで声を上げた。

『翼が欲しい?』

しかし、この声の主を見せる前に、桜田ジュンに対して確認しておくことがあった。

「ねぇ、見えてたんでしょ。私の力」

鼻血が口に入らないよう手で塞ぎながらも、確信のこもった声で彼は答える。

「見間違いじゃ…なかったのか。君に翼が生えて、一瞬で飛び上がった」


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 00:55:18.82 ID:cgYQg15eO
『翼が欲しいのなら歌いなさい』

内なる声は歌を要求する。
自分の意思で、自分の中のもう一人の力を引き出すためには歌が必要だ。
1フレーズで出せる時もあれば、いつまで歌っても出せない時もある。

「♪舞い上がる 銀色の羽根…」

静かに歌う。自分の中に歌声が届けばよい。
今日はさっき平手打ちを避けるために
彼女が勝手に出てきてくれたおかげもあってか、すぐ力は引き出せた。

蝉が羽化するかのように、背が割れ、上着を突き破り金属質の翼が生え始めた。
背骨や肋骨の中身が外に出て行くような気がしてあまりこの感覚は好きじゃない。
でも日の光をきらきらと反射させるメタリックシルバーの羽は気に入っていた。

そのお気に入りの翼を見て、桜田君は信じられない発言をした。

「…化け物!!」


40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 00:58:50.85 ID:cgYQg15eO
「化け物!? 私が!? ふざけないで!! アンタも同じくせに!!」

激昂。自分でも驚くほどの怒鳴り声がでた。
同じ境遇である桜田ジュンなら、もしかしたら自分の異形にも理解を示すかと
淡く期待していたところがあったからかもしれない。

しかし、所詮は敵となる男に期待した自分が馬鹿だと思い直した。

「僕が…同じ…!? …うぐ」

桜田君からは先ほどからとめどなく鼻血や耳血が流れていたが
私の昂ぶりに応じて、その流量は目に見えて増えていた。
すでに彼の前には大きな血溜りができ、そこには彼自身の姿が鏡のように映っていた。

「そう、私の意志であなたの鼻血が左右されている。それは共振。
あなたの中の無制御な力が私の力の共振に為すがまま。
鼻血を止めるも流すも私のさじ加減ひとつだったというわけ」

「く…」

「いい加減、自分で制御しないと出血多量で死ぬわよ。
見たところ常人の倍以上は血があるみたいだけど流石にそろそろ限界でしょ」


41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 01:01:37.33 ID:cgYQg15eO
『めぐ、もういいわ。攻撃を始めて頂戴』

業を煮やしたらしい内なる声が響く。それに従い私は歌を再開した。

「♪君の体に 降り注ぐ」

翼から羽根が放たれ、桜田ジュンの体に突き刺さる。
彼は全くよけることも出来ない。

「ぐっ!?」

次の瞬間、彼に刺さった羽根が爆裂した。この羽根は小型ミサイルでもある。

「うげっ!! ゲフッ!! ゴホゴホッ!!」

「綺麗な穴が空いたわね。安心して。急所は外してあるから死なないわ、多分」

桜田ジュンはひざをついた。
今まで経験したことが無い痛みが体中に起きている。
パニックに陥ろうとした頭の中に覚えのある声が響いた。

『力が欲しい?』

「なんで…こんなことに。僕が…どうして…」

『力が欲しい?』

「この声…? あの時と同じだ。あの時も意識が遠くなって、どこかから誰かが」

『力が欲しいのなら撒きなさい』


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 01:04:36.63 ID:cgYQg15eO
このまま死んでしまうのではないかと
桜田君をながめていた私は異変に気がついた。
うっかりしていれば見逃してしまいそうな小さな変化。
彼の足元に出来ていた血溜りに映る桜田ジュンの姿が
いつの間にか小さな女の子に変化していたのだ。

『ついに出たわね』

私の中の翼の主がそう言った。

血溜りに映った少女は微笑んだかと思うと、音も無くその血溜りの中から姿を現した。

いや正確に言うならば血溜りが少女の形をとった。
昔観たSF映画に出てきた液体金属製のサイボーグのように。

桜田ジュンの身長の半分ほどの背丈、流れる長髪。
しかし姿形は少女であっても、その体表は一面が赤黒く波打っていてまさに血液だ。
子供には不似合いな白衣もしくは修道衣に似たものを
まとっているようだが、液体のように波打っているので
フリルのドレスか、あるいは羽衣のようにも見えた。


43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 01:06:32.10 ID:cgYQg15eO
「何だよ…コレ」

当の桜田君本人はまだ何が起きたのか分かっていない。
血液の少女は彼に向き直った。

『コレ扱いはひどいんじゃなくて? 結構長い付き合いなのに』

少女が実際に声を発しているわけじゃない。
自分の翼と同じ、テレパシーみたいなもので喋っている。
普通の人にはそれは聞こえないが、私や桜田君には聞こえる。

「もしかしてずっと…僕の中に!? あの時から!?」

『そう。ずっとあの時から。何度呼びかけても全然気づきもしない
やっと応えたと思ったら、こんな土壇場。使えない媒介ね』

「使えないって…お前!!」

『お前じゃないでしょ。私はあなた、あなたは私なのだわ。
でも、それじゃちょっと不便ね。私の名は…』

興味深いと思ってこのやりとりを聞いていたが
突然、自分の中の翼の主が叫んだ。

『撃って!! めぐ!!』


44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 01:09:15.41 ID:cgYQg15eO
言葉のとおりに即座に羽根ミサイルを撃ち込む。
血液の少女は爆発して跡形も無く消えた。

目の前の惨劇に桜田君は驚きの声を上げる。

「ああッ!!」

一方、翼の主は怒りの声を上げた。

『痴話喧嘩のふりして名前を教えようとした!! 全く油断も隙もあったもんじゃない!!』

「名前ぐらいいいじゃないの」

私のなだめにも、内なる声は強い調子で言い返す。

『忘れたの? 私達 ARMSが媒介に名前を教えるということは
ロックされたパソコンのパスワードを教えるのと同じ。
あなたも私の名を知ったからこそ歌で力を引き出せるようになった』

「そう言えばそうだったわね、水銀燈」


45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 01:11:47.43 ID:cgYQg15eO
水銀燈。それが私、柿崎めぐに宿るARMS、翼の主の名前。
そして私は桜田ジュンに宿るARMSの名前も知っている。
水銀燈が教えてくれたから。彼のARMSの名は…

『私の名は真紅。5th ARMS 真紅』

塵となったはずの血液の少女の声があたりにこだました。

「しん…く!? 無事なのか!? 真紅!!」

桜田君は辺りを見回し、私は身構えた。

「(羽根ミサイルを)避けられてた!? でも確かに手応えが…」

突然、なんの前触れも無く眩暈が自分を襲った。息が苦しくなり頭が痛い。

「かは… なに…これ!?」

『めぐ!! 飛んで!!』

水銀燈に言われ、屋上のコンクリートを強く蹴り羽ばたく。
5メートルほど飛び上がったところで息苦しさは消えた。

『危なかった。真紅が羽根ミサイルで欠片一つ残さず消えたことを
もっと早く疑問に思うべきだった!!』

「何だったのよ、今のは!?」


46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 01:15:03.19 ID:cgYQg15eO
水銀燈はすぐにはその質問に答えてくれなかった。

『…ARMSとは意思ある微械(ナノマシン)の集合体。
私は鳥を模した翼のARMS。そして真紅は…』

「血のARMSでしょ?」

『大雑把に言えばね。でも本体は…』

眼下では桜田君が真紅を探していた。
彼はもう自分のARMSの正体に気付いたのだろうか?

「どこだ!? 真紅、本当に無事なのか!?」

『落ち着いてジュン、あなたの目の前にいるのだわ。
あ、動かないで。それ以上近づくとあなたでも危ない』

「危ない?」


47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 01:17:45.19 ID:cgYQg15eO
一方、自分の方では水銀燈が真紅の特性について解説を続けていた。

『真紅の正体は血液の中の赤血球。赤血球の真紅。それが5th ARMS』

「赤血球…?」

『そう、赤血球とは体内で酸素と二酸化炭素を交換する役割を担う。
そして今、あなたの意識がもっていかれかけたのは、
さっき立っていた位置、半径2〜3メートルってとこかしらね…
その空間内の酸素が全て空気中に散らばった真紅に奪われていた。
つまり一瞬で窒息させられたのよ。それが真紅の得意技、透明シェルター』

「水銀燈の羽根ミサイルもそうだけどイマイチぱっとしない名前の技ね。
もっとこう…エターナルフォースなんちゃら!! とかカッコいい感じにしない?」

『お馬鹿さんねぇ』

「だってその方が強そうじゃない、きっと一撃で相手は死ぬのよ」

『全くこの子は… あ、そうそう。今度うかつに真紅に近づいたら
それこそ即死よ。気をつけて頂戴』

「酸欠で即死だなんて…」

『これだけ時間があれば、今度は真紅は二酸化炭素を貯め込んでいるはずよ。
高濃度の二酸化炭素を吸わされれば即死するわ』

「じゃあ、どうすればいいの?」

『あなた私を誰だと思っているの?』


48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 01:21:12.65 ID:cgYQg15eO
押し問答は桜田ジュンと真紅の間でも行われていた。

「赤血球? 二酸化炭素?」

『今の私はあなたの目に見えない濃度まで薄まって
大気中に漂っている。そしてその透明シェルターの中の
二酸化炭素の濃度は…今でやっと15%ってところね』

一瞬、桜田ジュンの眼前に薄ピンクに染まったドーム上のもやが現れた。
説明のために一時的に真紅が透明シェルターを示したのだが、
彼女の主人はそれよりも不穏な雰囲気を感じ取っていた。

「あいつを…柿崎を殺すのか!?」

『柿崎? …水銀燈の媒介ね。本当に殺すつもりは無いわ。
でもあの子の 1st ARMS 翼の水銀燈は
殺すつもりでかからないと勝てる相手ではない。
おそらく私が二酸化炭素を集めていることも既にばれてる。
分かってて、わざとこちらに時間を与えている』

「わざと?」


49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 01:22:13.31 ID:cgYQg15eO
『水銀燈は鳥を模したARMS、羽根のほかに気嚢も持っている。
5分や10分なら呼吸を止めたままでいられるのだわ』

「気嚢?」

『空気ボンベみたいなものよ。鳥が酸素の薄い上空を飛んでも平気なのはそのおかげ』

「それじゃこっちに勝ち目は無いじゃないか」

『話は最後まで聞きなさい。呼吸が出来ないということはあの媒介は歌えないということ。
歌えなければ水銀燈の力はフルには引き出せない』


50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 01:25:22.06 ID:cgYQg15eO
問答の到達点は如何に相手のペアを出し抜く方法を考えるかだ。
それに関しては私と水銀燈も同じである。

「で、結局どうするの? 相手の必殺の一撃は防げるけど、こちらも決め手に欠けてる」

『媒介の歌が無ければ私の力が引き出せないのと同様に
真紅は媒介の血として体外にばら撒かれていなければ戦えない。
でも、あの媒介はもう既にかなりの量の血を流している。
いくら血が必要だからと言っても死なれてしまっては元も子もない。
いい加減、全ての真紅が肉体に戻って傷の再生を始めないと危ないわ』

「それをさせなければいい?」

『そういうこと。でもこの間合いで羽根ミサイルを撃ち込むのも
無理やり肉弾戦に持ち込むのもNGよ。
こっちが透明シェルターを警戒していることがばれてしまう。
真紅に、【もしかしたら水銀燈を透明シェルターで倒せるかもしれない】
そう思わせることが重要。じゃないとすぐに宿主の治療に回って、態勢を立て直されてしまう』

「なら、入るしかないわね。そのシェルターに」

近づいて透明シェルターに突っ込む。敢えて、そう敢えてだ。
そして真紅に透明シェルターを解除させない。
その状態が続けば桜田ジュンはやがて倒れる。

『根競べね。私達の息が尽きるのが先か、向こうの血が尽きるのが先か』


51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 01:36:47.05 ID:cgYQg15eO
「おはよう」

あまり感情のこもらない声で柏葉巴はそう言った。

柿崎めぐは保健室のベッドで目が覚めた。
初夏とはいえ、もう陽はかなり傾いていた。

自分は屋上で桜田君と戦っていたはず。
それがどうしてここに? はたして勝ったのだろうか? 負けたのだろうか?
問いかけてみても自分の中の翼の主は答えなかった。

その時、ベッドの脇の椅子に柏葉さんが腰掛けていたのに気付いた。
何を言おうか、何を聞こうか、考えあぐねているうちに「おはよう」と言われてしまった。

「あなた屋上で気を失っていたのよ。桜田君と一緒に。
桜田君は鼻血を出して倒れていた」

柏葉さんは隣のベッドを指差す。 確かに桜田が寝ている。

鼻血以外に外傷は見当たらない。
どうやら私が彼につけた傷は真紅が修復したらしい。
制服まで修復しているのだからあきれるしかない。

だんだんと記憶が戻ってきた。そうだ相打ちになったんだ。
真紅は宿主を救うため透明シェルターを解除して彼の体に戻った。
しかし、こちらも限界でそのまま気を失ってしまったのだ。


52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 01:40:24.53 ID:cgYQg15eO
「何があったの? いえ、あなた桜田君に何をされたの?」

「された?」

柏葉さんが今度はハンガーに掛けられためぐの上着を指差した。
上着は背中の位置に大きく裂かれた跡があった。
翼を出す時に上着を脱がなかったからだ。
水銀燈には真紅のようなサービス精神というやつはない。

「上着だけじゃない。シャツも破れているわ」

ああ、なるほど。柏葉さんが何を考えているのか分かってきた。
女は服がはだけて、男は鼻血を出して倒れている。
それだけを見て、二人がそこでついさっきまで
命のやり取りをして戦っていたと思う者はまずいないだろう。

「別に桜田君は私に何もしてないわよ。
もっと幼馴染を信じてあげたらどう? 私が彼を少しからかっただけ」

「からかっ…!!」

「冗談よ、冗談。服が破れたのは、クラスの、
ほら、あのリーダー格の女の子と喧嘩しちゃって…
それで、屋上で頭を冷やしていたら桜田君がたまたま。
それよりもあなたはどうして屋上にやってきたの?」

「何となく…誰かの声がした気がして」

「ふぅん」


53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 01:43:40.95 ID:cgYQg15eO
「紅茶にする? それともコーヒー?」

桜田君に飲物をすすめてみる。

「こう…」

『ウーロン茶かほうじ茶は無いの?』

彼の言葉を真紅のテレパシーが遮る。

「ペットボトルのでよければウーロン茶があるわ」

『じゃあ、それをお願い』

自分の意を完全に無視された宿主は恨めしそうに目をつぶった。

柏葉さんと別れた後、私は彼を自宅(アパート)に招いた。


54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 01:46:47.65 ID:cgYQg15eO
保健室で桜田君もすぐに目を覚まし、
柏葉さんとともに三人で帰路についたのがおよそ20分前。

「それじゃ…私こっちだから」

分かれ道で、柏葉さんは手を軽く振った。

「あ、ああ…さよなら」

「ごきげんよう」

彼女の前では私達は屋上のことを話さなかった(話せるわけが無い) 。
幼馴染との距離が離れた途端に桜田君は堰を切ったように話しだした。

「何が『ごきげんよう』だ。今日のあれはなんなんだ」

「…積もる話もあることだし桜田君、うちに寄ってかない?」


55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 01:51:56.15 ID:cgYQg15eO
「僕は紅茶が良かったのに…」

文句を言いながらも彼は喉が渇いていたのだろう、500mLを一気に飲み干した。

『紅茶やコーヒーに多く含まれるタンニンは鉄分の吸収を妨げるのだわ。
ウーロン茶にもタンニンはあるから嫌なのだけど、まあマシな方ね。
鉄は血、血は力。今後は気をつけて頂戴』

「うるさいな」

『大切なことよ。今日はもう、血を流しすぎた。今、もう一度戦えば水銀燈には負けるわね』

負けると聞いて彼女の宿主は少しむせたが、実は今の私にも勝てる要素は無い。

「それはお互い様ね。こっちも水銀燈はさっきから眠ったまま」

『どうだか…』

ちょっとした緊張が私と彼女の間に走ったが、息を整えた桜田君がそれを破る。

「ARMS…て言うんだよな。僕の真紅も、柿崎の翼の水銀燈も」

「ええ、でも本題に入る前に少し後ろ向いててくれる?」

「?」

「着替えたいの。背中破れてて寒いから」


57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 01:55:00.19 ID:cgYQg15eO
「あべふっ」

今日いやと言うほど見続けた鼻血が再び間欠泉のように噴き出した。

「ARMSに覚醒したのに制御できないの?」

『なんか癖になっちゃってるみたいね。すぐには治りそうに無いのだわ』

「あとで床拭いといてね」

『残り少ない血なのに勿体ない。跪いてお舐めなさい』

「馬鹿言うなよ…」

後ろを向きながら桜田君はうな垂れていた。部屋着に着替え、彼をこちらに向かせる。

「あーあ、この高校の制服気に入ってたのに」

オーバーリアクション気味に嘆いてみせると
彼は遠慮がちながらも自信のある声でこう言った。

「繕おうか?」


58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 01:59:25.53 ID:cgYQg15eO
「できるの?」

「ちょうど同じような色の余り布もあるから」

学生鞄から裁縫道具を取り出すと彼は器用に服の裂け目を縫い始めた。

「何も言わないのか?」

「何を?」

「裁縫が趣味なのか? とかさ」

「それは知ってるもの。あなたが起きる前に柏葉さんから全部聞いた」

「柏葉め」

ちくちくと桜田君は針を進める。集中しているのか
それとも元から口数は少ないのか、何も喋らなくなった。

「ねぇ、真紅ちゃんはどうしたの?」

「さっき寝た」

「そう」


59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 02:02:20.10 ID:cgYQg15eO
「……見ててもつまらないだろ。まだ少しかかるし、テレビでも点けろよ」

「いえ、おもしろいわ。とても。第一この家にテレビは無いもの。
それに、あなたこそ何も聞かないのね」

「何を?」

「どう見ても私一人暮らしのアパート。両親はどうしたのか? とか」

「喋りたくないなら無理しなくていい」

「優しいのね。それとも人の思い出話を聞かされるのは嫌い?」

「別に…ただそういうこといきなり聞くのは無神経だと思っただけさ」

「(これも柏葉さんから聞いたんだけど)あなたも両親がいないから?」

「…」

「私も両親がいない。二年前に死んだ。いえ、殺された」


60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 02:05:57.94 ID:cgYQg15eO
「私は子供の頃から二年前まで心臓の病気で入院していた。
最初は五歳の頃に死ぬ。次は八歳で死ぬ。その次は十三歳で死ぬ。
死の宣告を受け続けるばかり。しかもそのカウントは減らずに増えていく。
うんざりよね。でもある日、人工心臓を移植することになった」

針を持つ桜田ジュンの手がわずかに鈍った。

「人工心臓…?」

「それが水銀燈だと分かったのはもう少し後の話だけど。
とりあえず手術は成功。みんな祝福してくれた。嬉しかった。
退院の日、パパもママもお医者様も年増の婦長さんもみんな笑ってくれた。
でも、白い悪魔が現れてみんな殺された」

彼の針の進みがまた一段と遅くなる。

「……」

「何が起きたのか私には分からなかった。
白髪で白いスーツの…若いのか老いているのかも分からない
痩せた男が素手で人を引き裂いていた」

「白髪で白スーツの悪魔……」

「私はただ逃げることしか考えられなかった。助けを求めようにも 、パパもママも…
それまで私の世界の全てだった病院の人達もみんな殺されていた。
恐怖で頭がおかしくなったのか私は病室の窓辺から…五階なのに。
そして初めて水銀燈の声が聞こえたわ。『翼が欲しい?』ってね」

「僕の時は、真紅は…『力が欲しい?』だったな」

「…あの時のことは今でもよく覚えている。初めて空を飛んだ日。
恐怖から逃げ出せた安堵感。全てを奪われた喪失感。
その後は水銀燈と二人で生きてきた。
水銀燈はいろいろと教えてくれたARMSのこと。姉妹のこと」


61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 02:08:39.72 ID:cgYQg15eO
「姉妹…?」

桜田ジュンは針を再び進め始めていた。

「ARMSとは微械(ナノマシン)の集合体で意思を持っている。
けれど普段は移植された者の肉体等に擬態している。
私の場合、心臓がそうだし桜田君は血ね。しかし移植者が望めば真の姿を現し
兵器(ARMS)としての力をふるう。それどころか全身に散らばった微械が
移植者の身体能力を底上げし、傷もすぐ治してくれる。
そしてARMSは全部で七つあるそうよ。七姉妹ってわけ」

「そう言えば真紅は『自分は5th ARMS』って言ってたな」

「私の水銀燈は1st。一番お姉さんみたいね。 そしてあの白い悪魔もARMSを持っていた。
何番目のARMSだったかまでは分からない。 でもあの白い悪魔の目的は水銀燈だった。
それだけは分かる。
なぜなら…ARMSには皆全て一つのプログラムが初めから組み込まれているから」
「プログラム?」

「それは…他のARMSを全て食い殺せ」

「ッ!?」

彼の手が完全に止まった。


62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 02:10:14.13 ID:cgYQg15eO
「信じられない話でしょ。姉妹がお互いを食い殺す!?
でも彼女達なりにも理由はあるみたい。 ARMSは全て不完全な存在。
歌がないと水銀燈は戦えないし 真紅ちゃんは血が流れないと戦えない。
でも他のARMSを取り込めば、それは究極のARMS『アリス』へと進化できる」

「だから僕を襲った?」

「今となっては水銀燈が私の世界の全て。彼女がそう願うのなら叶えたかった。
それにアリスに近づけばそれだけ強くなれる。
白い悪魔にも勝てる力が、復讐のチャンスがきっと来る」

「今でもそう思っているのか? また僕と戦うのか?」

「…あなたと戦って考えが変わったわ。 いえ、それよりも柏葉さんを見てかしら。
私が真紅ちゃんを、あなたを殺せば 今度は柏葉さんが私になる。
そして私は白い悪魔になってしまう」

冷静に話していたつもりだが、いつの間にか涙が流れ始めていた。
白い悪魔に全てを壊された日以来、決して人前では見せなかった涙が。


63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 02:14:43.12 ID:cgYQg15eO
「お…おい!!」

「平気よ。それよりも続きを聞いて。
私の気が変わっても、きっと水銀燈はすぐには納得しない。 でも説得してみせる。
何年かかっても姉妹と戦うのは間違いだって分からせてみせる。
だから…今更…本当に勝手なお願いだけど桜田君にも約束して欲しい。私とは戦わないって。」

「な、なんだよ。そんなことならいくらでも協力するよ。
何だかんだ言ったってARMSは媒介がいなけりゃ駄目なんだろ?
いくらこいつらが戦おうとしたって、人間はARMSなんかに負けたりはしないさ」

この言葉は彼の空元気ではあるかもしれないが、心強かった。

「…ありがとう。でもそれだけじゃないの。問題は白い悪魔。
あいつは他のARMSを探し出すための仲間が大勢いる」
「白い悪魔に仲間が?」

「ラプラスという名前の集団。私は今までラプラスの人達に何度も狙われた。
私たちがアリスへの進化を望まなくても、あっちはお構いなしに襲ってくる。
そして私があなたのことを知ったのもラプラスの刺客をしめあげてのこと。
つまり、ラプラスはあなたがARMSだってこともつきとめているのよ」

「僕も…狙われている!?」

桜田君の顔色は少し青ざめたが、それ以上に私も色を失っていた。
一気に喋り終え、さらに涙が溢れてきていた。
ARMS、ラプラス、突拍子も無いことを一方的にまくしたてた。
今まで水銀燈と二人だけの世界で話し合っていたときとは違う。
人に自分の気持ちを伝えるのがこれほど苦しくて、心許ないだなんて。


64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 02:20:20.22 ID:cgYQg15eO
洗面所で顔を洗って戻ると綺麗に畳まれた制服が差し出された。

「服…繕い終わったよ」

「ありがとう」

「それと…ごめん」

「気にしないで。服が破れたのはあなたのせいじゃないし。それに綺麗に直してくれた」

「いや、そうじゃなくて…僕は君に酷いことを言った」

「?」

「君の翼を…水銀燈を見て、化け物と言ってしまった」

「…いいのよ、別に」

誰だって初めてこの機械の翼を見れば禍々しいと思うだろう。
ラプラスの刺客でさえ、これを見たものは恐怖と侮蔑の色に顔を染めた。

「銀色に輝いていた綺麗な翼なのに 僕は酷いことを言ってしまったんだ」


65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 02:21:24.13 ID:cgYQg15eO
「今、綺麗…て? 私の翼が?」

「あ、ああ」

桜田ジュンの両肩を抱き言葉の真意を問う。
彼は少し照れていたが、その目に嘘はなかった。

「…嬉しい」

また涙が流れた。でもこれは今までの涙とは違う。


67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 02:24:23.26 ID:cgYQg15eO
『何はしゃいでるのよめぐ。誉められてるのは私の翼なのよ』

出し抜けに響いたテレパシーに二名は肝をつぶした。

「水銀燈!?」

「起きてたの? いつから!?」

『めぐが着替え終わったあたりからよぉ』

「めちゃくちゃ前じゃない!なんでずっと黙ってたのよ?」

『お邪魔かしらと思って』

「だったらもう少し黙ってくれてても…ははぁん。それとも妬いてるのかしら?」

『バ…バッカじゃないの!? 私が!? 誰に!?』

「冗談よ。でも私はあなた、あなたは私でしょ。 つまり桜田君は私達を誉めてくれたのよ」

彼は照れくさそうに鼻をぽりぽりと掻いた。


68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 02:30:08.45 ID:cgYQg15eO
『…』

水銀燈はなかなか返事をしない。

「もう。素直に喜びなさいよ。今までこの翼、人に誉められたことなんて無かったじゃない。
この翼を見せるのはラプラスの刺客を倒す時だけだったから
ずーーーっと銀翼の魔女だとか、殺し銀とか怖れられてたじゃない」

『そ、そんなことよりもめぐ、アリスのことだけど…』

水銀燈はいきなり話題を切り替えてきた。
そうだ、私の心変わりの部分も聞かれていたのだ。

「聞いてた…わよね。すぐに分かってくれとは言わない、けど…」

予想以上に落ち着いた調子で水銀燈は答えた。

『私はそこの真紅と違って物分かりはいい方よ。
それにあなたがいつでも歌ってさえくれるなら
私はあなただけのアリス。それで満足できるわ』

「…ありがとう。水銀燈」


69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 02:33:28.96 ID:cgYQg15eO
『聞き捨てなら無いわね、水銀燈。
まるで私が一番戦いたがってるみたいじゃないの』

今度は真紅ちゃんのテレパシーが響いた。
これには当の宿主の桜田君が一番驚いたようだ。

「真紅!? お前も起きて…!? さっき、もう寝るって」

『嘘よ』

「…っ!!」

絶句する彼をよそに私は喜びを隠さない。

「それじゃあ真紅ちゃんも!?」

『今日はあなたが襲ってきたから仕方なく対処したまでよ』

「あはは…ごめんなさい」


72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 03:08:20.95 ID:cgYQg15eO
水銀燈も続いて謝罪した。

『真紅の媒介…。私からも謝っておくわ(それと、ありがとう…翼を誉めてくれて…)』

「いや…」

ただの謝罪を受け取ったにしては桜田君は非常に照れていた。
その理由は次の真紅ちゃんの言葉ですぐさま明らかにされた。

『水銀燈、あなた、ARMSからの会話はテレパシーなんだから
括弧つきで伏せても筒抜けよ』

『…ッ!!』

吃音ですら聞こえた気がした。
少しの後、私は笑いをこらえきれなくなった。

「本当、素直じゃないんだから。ふふ… あー、可笑しい」

この日私は、心から笑った。涙も流した。
白い悪魔が奪ったものを少しだけ取り戻せた気がした。


75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 03:43:17.72 ID:cgYQg15eO
PHASE3:トモエサン


夏休みのある日。私、柏葉巴の日常は崩壊した。

「おい!!人質をとるなんて卑怯だぞ!!」

桜田君が激怒している。その隣には銀色の翼を生やした柿崎さん。

『残念だけどあの子のことはあきらめなさい』

「駄目よ水銀燈!! 勝手に撃っちゃ駄目!!」

私は見たことも無い傷だらけの男に羽交い絞めにされている。
男は私の首に刃物をつきつけつつ叫んだ。

「まさか…たまたま通りかかったこのお嬢ちゃんが貴様らの知り合いだったとはな。
俺にも運が向いてきたようだ。
ARMSを二体も連れ帰れば大出世間違い無しよ!! 1st!! 翼ををたため!! 5thもだ!!
あたりに散布しているのを俺の見えるところに固めろ!!」


76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 03:48:01.93 ID:cgYQg15eO
柿崎さんの翼が一瞬にして逆立つ。

『ちぃっ!!』

「お願い水銀燈!! 言うことを聞いて」

逆立っていた翼が小さくなり、力なく垂れ下がった。
と、同時に桜田君の隣に赤いスライム状のものが姿を現した。

「ごめん…真紅。でも柏葉がどうしてこんなとこに…」

私は後悔した。
そうだ。どうして自分はこんなところに来てしまったのだろう。

何故、桜田君と柿崎さんが二人並んで歩いているところを見つけて尾けてしまったのだろう。

単なるデートのようには見えなかった。
二人とも一言も交わさない。表情にも明るさは無く、険しい。

どんどん人気の無いところに進んでいく。

突如、見失ったと思ってあたりを探し回ってみたら
傷だらけの男の人質にされてしまったのだ。


78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 03:54:00.11 ID:cgYQg15eO
「いきなりお前ら二人に襲われた時はもう駄目かと思った…
が、惜しかったな。さかしい目論見もこの小娘のお陰でパーだ」

男は私の首をナイフで何度も小突いている。

そうだ。自分のせいだ。
自分がここにいるせいで桜田君と柿崎さんが困っている。
なんとか、なんとかしなくては。

取りあえず定石どおりに男の股間を踵で蹴り上げることにした。
「くふゥッッ!?」

長身の男だったが首にナイフを突きつけるため
片ひざをついて軽くしゃがんでいてくれたことが幸いした。

もし普通に直立したままだったら私の足は届かなかっただろう。

「ほあっーーー!!」

悶絶した男は手を離し、屈む。

「柏葉!?」

なぜか桜田君も自らの股間を押さえていた。

すぐさま竹刀袋を拾う。
男に羽交い絞めにされた時に落としたのだが
いつも肌身離さず持っておいて良かった。


79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 03:54:18.05 ID:KL0tUr3/0
支援

139080.jpg



81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 03:56:06.08 ID:oCUh/ucXO
>>79
この真紅にはできるだけ独りで歩いてもらいたい


80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 03:56:02.58 ID:cgYQg15eO
この後すぐ私はまた後悔した。何故竹刀を使おうと考えてしまったのだろう。
どうして悪漢に立ち向かおうとせず、その場から逃げることを選ばなかったのだろう。

この男を自分の力で倒せれば
柿崎さんと同じに桜田君の隣に立てるだろうかなんて
馬鹿げたことをどうして思ってしまったのか。

自分さえいなければ、この二人で男には勝てたはずだ。

竹刀は無かった。竹刀袋の中は空だった。
落としたときに中身がどっかいってしまったのだろうか。

「この…!!」

男が立ち上がりナイフを振りかぶった。

身を守るため反射的に右手を前に出す。

男のナイフが深々と自分の右腕に刺し込まれると同時に
私の頭の中には幼い子供のような声が響いた。

『刀が欲しいの?』

「う!?」

刺されたのに出血が無い。痛みも。


82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 03:59:30.14 ID:cgYQg15eO
『刀が欲しいのなら』

頭の中の声は止まず、私は混乱していた。
一方、ナイフの男は事態を理解し始めていたようだ。

「な、なんだこの手応えは!? 肉でも骨でもない!!
まさか…まさかお前も!? 三人目もいるなんて聞いてなかったぞ」

『遊んで』

自分の内なる声がそう言い放つとともに右腕から潜水艦のように竹刀が浮上してきた。
ナイフが刺さっていたのは竹刀。

竹刀はまるで生き物のように刺さっていたナイフを『ぺっ』と吐き出した。

竹刀を強く握る。握りの内側が熱く脈打っていた。
手に吸い付いつくような感じ。それもそのはず手と握りが一体化していた。


83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 04:02:59.73 ID:cgYQg15eO
それを見ていた桜田ジュン達も唖然としていた。
その中で最初に言葉を漏らしたのは真紅。

『そんな、私ですら…気付かなかった。巴が…』

「柏葉も…ARMS!?」

真紅とその媒介に続き、水銀燈も解説を入れる。

『どうやら今、巴の危険を感じて初めてARMSが移植されたみたいよ。
つまり今まで冬眠状態。共振すらほとんど無かった』

「あら、私はちょっと怪しいと思っていたわよ。
幼馴染とは言え、桜田君に触れても鼻血出させないし。
それに屋上で気を失った私たちをすぐに見つけたのも柏葉さん。
あの時、彼女は誰かの声がしたと言っていた」

水を差された水銀燈は押し黙った。

『…』

「なんとなく感じる力なら人間はARMSに負けないわ」


84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 04:06:22.22 ID:cgYQg15eO
『遊んで、ねぇ遊んで』

「おおおおおおおおお!!」

男は右手から生える竹刀に散々打ち据えられた。
無茶苦茶だ。私の意志とは無関係に右腕が動いている。

そのうち男は気を失ったらしい。右腕の竹刀はアラレちゃんのように男をつつく。

『あれぇ? もう終わりなの? つまんない』

「な、なに…あなた誰!?」

ようやく自分の右腕の竹刀に質問することが出来た。

『トモエは一緒に遊んでくれるよね〜』

今まで手のひらから生えていただけの竹刀が一回り太くなったかと思うと
右肩辺りまで一気に竹刀に侵食される。
竹刀であった棒状のものは金属光沢を帯び、もはや槍と言った方がいい形になった。


85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 04:08:14.28 ID:cgYQg15eO
『あら、ちょっと風向きが怪しいわよ』

異変を感じた真紅が自らの媒介に告げた。

「柏葉!? 大丈夫か!?」

「桜田君…、私どうなっちゃったの?」

足が勝手に二人のほうへと向かう。
右腕だけじゃない、もはや全身が竹刀の主に操られている。

『あー、真紅なの。水銀燈もいる!! ねぇ、遊ぼ!!』

水銀燈と呼ばれた柿崎さんの翼が、今まで垂れ下げていたのを再び逆立たせ、竹刀と対峙した。

『…いいわよぉ。何して遊ぶ?』

『アリスゲーム』


86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 04:13:36.86 ID:cgYQg15eO
「ちょ、ちょっとやめて!! お願い!! 柿崎さん達は友達なのよ」

槍は二人に襲い掛かる。
柿崎さんは桜田君を抱えるとひらりと宙へ舞った。

「あ、ありがとう柿崎」

「いくら幼馴染に襲われたからって隙だらけよ」

『めぐが助けてくれなかったら心臓を一突きにされてたのだわ』

「でも、どうして僕達を!?」

「私達の時があっさり和解したもんだから忘れてるでしょ?
もともとARMS同士は戦いあうようにプログラムされているの」

「なんとかならないのか?僕達の時みたいに」


87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 04:14:33.66 ID:KL0tUr3/0
かじゅきも出てくるのだろーか


88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 04:14:33.98 ID:cgYQg15eO
幼馴染としては当然の願いだ。真紅と水銀燈もそれは承知している。

『あの子もあんまり好戦的な性格じゃないのだけれども…』

『私や真紅よりも精神年齢が低いARMSだから
殺すという意識が薄いのよ。ゲーム感覚ね』

『でも、方法が無いことも無いのだわ』

「本当か!? 真紅」

宿主の問いかけに、真紅は自身に満ちた声で答えた。

『ええ、きっとうまくいく。だって人間はARMSに負けないのでしょう?』


89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 04:21:10.77 ID:cgYQg15eO
『ねぇ、降りてきて〜!! つまんないのよ〜』

右手が二人に向かってぶんぶんと槍をふるっている。
さっきから何とか自分の意思で止められないか試しているが全く言うことを聞かない。

柿崎さんと桜田君は上空で何事か相談しているらしい。

『6th ARMS 手のひらの雛苺、それがあのショートの子のARMS。
まさか竹刀に加工されていたとは思わなかった』

「ねぇ、水銀燈。竹刀って竹で出来ているんじゃないの?」

「…柏葉のはカーボン製だよ。剣道を始めた子供の頃練習用にもらったらしい。
何度か本物の竹刀にするよう周りに薦められても変えなかった」

媒介の竹刀談義を真紅が制する。

『まぁ、その辺りの事情も気になるところだけど。今は雛苺を何とかするのが先決。
気付いてた? あの子、まだ媒介に自分の名前を教えていないのだわ』


91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 04:22:40.18 ID:cgYQg15eO
水銀燈がさらに話を補足した。

『だから、巴は雛苺にいいようにされている。
それにこのまま放っておけば侵食は右肩よりも先に進んで全身に至る。
下手すればARMSに憑り殺されるわよ』

「じゃあ早く教えなくちゃ!! おい、柏葉…!!」

『ジュン。ちょっと待って。私たちが教えても意味が無いのよ
雛苺が自分で教えなくては』

「く…」

唇を噛んだ真紅の媒介に水銀燈が打開の策を示す。

『幼馴染を救いたいのは分かるけど、ちょっと落ち着いてぇ。
ARMSは媒介の協力なくしては本来の力は発揮できない
私達が雛苺を負かそうとすれば、きっと巴に自分の名前を教えて助力を請うはずだわ』

「そうなのか?」

『そうよ。覚えてないでしょうけど、私と戦った時
真紅が透明シェルターを使えるようになったのも
あなたが真紅の名前を呼んだからだったのよ』


93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 04:27:08.68 ID:cgYQg15eO
「ほらほら、鬼さん手の鳴る方へ〜」

『ウォォ〜アンマァ〜キャハァ!カハァ!ケハァ!』

柿崎さんが自分の前を挑発するように飛んでいる。
槍の主はそれを何とか突き落とそうと必死だ。

「柿崎さん…!! 私、どうすれば…!?」

「もう少し我慢して、きっとあなたがそのARMSを
自分で押さえつけられるチャンスが来るから。 今は…私と桜田君を信じて」

その時、別の声が響いた。

『めぐ!! 歌って!!』

柿崎さんの銀色の翼からだ。そうか、これがARMS。
自分の手槍も彼女の羽も、桜田君の血も。

「♪ふれた指先 心 燈して」

彼女が歌いだすと翼の先端がゆらゆらと燃え始めた。
たいまつのようなその二つの翼をこちらに向けて槍をいなしている。


94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 04:30:15.38 ID:cgYQg15eO
『あうう〜 熱いの〜』

『あぁら、この程度で音(ね)を上げちゃうの?
そんな実力でアリスゲームに勝とうだなんて、ちゃんちゃら可笑しいわぁ』

『そんなこと…ないんだからっ』

『今よ、真紅!!』

突然地面がぬかるんだ。底なし沼のように足が取られる。

「きゃっ!!」

足元にいつの間にかトリモチみたいなものが敷かれていた。
いや、これはさっき桜田君の隣に現れた赤いスライム。

「すまない、柏葉!!」

路地の影から桜田君が姿を見せた。血を伏せて機を伺っていたのだ。


95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 04:33:54.36 ID:cgYQg15eO
『チェックメイトね。素直に負けを認めれば離してあげるけど?』

赤い塊の発する忠告に槍は従わない。

『うう、まだ奥の手があるもん!! トモエ!!
ヒナを!! 雛苺を助けて!! もっと一緒に遊んで!!』

「雛…苺?」

私が槍に名前を聞き返した途端 、右肩まで進んでいた侵食が一気に逆流。
右腕が元に戻り、槍も竹刀へと戻った。 しかし雛苺と名乗った声はまだ続いている。

『離さないでねトモエ!! そうすればヒナはさっきよりも強く…』

即座に手を離した。竹刀はポトリと地面に落ちる。

『ウォォ〜アンマァ〜…』

「ダメよ…雛苺」


98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:06:47.43 ID:cgYQg15eO
何がなんだか分からないが自分はこの得体のしれないモノから解放された。
半ば放心状態の私に、桜田君が駆け寄ってくれた。

「無事か、柏葉」

「…ええ」

赤いスライムが足から離れると、少女の姿に変わった。
そして転がった竹刀を睨み付ける。

『さて、お説教の時間ね、雛苺。いくら目覚めたてとは言え
媒介を媒介とも思わないその振る舞い、勝手が過ぎるのだわ』

「お前が言えた義理かよ」

突然桜田君の鼻血が流れ出した。

『ジュン、少し黙ってて頂戴』

「だから言ってることとやってることがお前は違…」

『お前じゃないでしょ』

「えびすっ!!」

奇声と鼻血を上げ、倒れる桜田君。柿崎さんはそれを
クスクスと笑いながら見ている。そして彼女の翼からも声が聞こえた。

『覚悟は出来てるんでしょうねぇ、雛苺?』

『あうう〜』


99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:09:28.95 ID:cgYQg15eO
ARMS間のお説教は小一時間続いた。
それと同時進行で、桜田君は私にこれまでの説明をしてくれた。

「まぁ、急には信じられないだろうけど、これが僕達の現実なんだよ」

そこへ柿崎さんもやって来た。
今まで水銀燈ちゃん達と一緒に雛苺を諭していたのだ。

「どうやら向こうも終わったみたいよ。お説教」

地面に転がっている竹刀を眺める。本当にコレがARMSなのか。

『巴、もう竹刀を握ってもいいわよ』

真紅ちゃんに促され竹刀を拾う。吸い込まれるように右手の中に沈んだ。

「!?」

戸惑っていると今度は水銀燈ちゃんが解説をいれる。

『6th.ARMS 雛苺。私や真紅とはちょっとタイプの違うARMSなの。
移植されても常に移植者の体内にあるとは限らない。
特に戦闘時には、手のひらから槍として出てあなたの体から離れるわ。
力を発揮する条件は、あなたがその手を離さないこと。
離したらさっきのように竹刀の姿に戻り、一時的にあなたも移植者としての恩恵を失う。
つまり治癒力や身体能力が普通の人間のそれに戻る』


100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:15:29.35 ID:cgYQg15eO
右手の中の竹刀の主は泣き出しそうな声を上げた。

『ごめんなさい!! ごめんなさいトモエ』

「いいのよ雛苺…もう怒ってないわ。
私こそ、ずっと傍にいたのに気付いてあげられなくてごめん」

その時、桜田君の体に戻った真紅ちゃんが話しかけてきた。

『巴、あなたはその竹刀を親から貰ったそうね』

「ええ…」

『会わせてもらえるかしら』

桜田君の真紅ちゃん、柿崎さんの水銀燈ちゃん、そして私の雛苺。彼女達には記憶が無い。
初期状態として他のARMSの情報、そして姉妹を食い殺せとのプログラムがあるだけなのだ。

自分達がどのようにして造られたのか、
何故アリスを目指さなければならないのか、それが分からない。

傷の男(ラプラスの諜報員)を締め上げようとしたのも
その辺りの情報が得られるかと思ってのことだったそうだ。
ちなみにあの傷の男は気が付いたらどこかへ消えていた。


102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:20:59.95 ID:cgYQg15eO
両親は立派な人物だと思う。
少なくとも近所の人は柏葉家を古くからある名家として称えている。

小さい頃から望むものは何でも買ってくれた。
大きなクマのぬいぐるみ、30色を超えるクレヨン。
それは過保護以外のなにものでもなかったが、それはまた私が望めばというだけのことだった。

ある日、私は欲しい物がなくなった。
して欲しいことも何も無い。私は何も言わないでいてみた。
途端に両親は何もしてくれなくなった。
思えば私は「何が欲しい?」と聞かれたことは無かった。
いつも自分から「あれが欲しい」「これが欲しい」と言っていた。

彼らは子供の言うことは何でも聞くが
子供が何も言わなければ何もしてくれなかった。
しかし、私にも特にして欲しいことがあるわけでは無い。
私はますます口数が少なくなっていった。

ところがある日、カーボン製の竹刀をくれた。
明日から剣道を始めろとも言われた。

理由は何も言わなかった。

驚きと、初めての本当の意味でのプレゼントに喜びがあった。
その日は竹刀を抱いて寝た。


104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:25:28.32 ID:cgYQg15eO
「お話があるんですって? 巴さん」

「はい、お母様」

「それはお友達も一緒でないと聞けないことなの?」

母は私の後ろで小さくなっている二人を見つめた。

「は…はじめまして」

「お、お久しぶりです。おばさん」

柿崎さんが柄にも無く緊張している。
桜田君も母と会うのは何年ぶりだろうか。少し怯えてもいるようだった。

無理も無い、母の毅然とした態度は
近所の人たちには「いつも凛としてらっしゃる」と好評であったが
間近では威圧感が強すぎる。

「あら、怒ってるわけじゃないの。ただ…急な話だから吃驚しているだけ
柿崎さん…と言ったわね。そう固くならないでもいいのよ。
桜田君も本当に久しぶり。背が伸びたんじゃない?」

世間話を始めた母に話を切り出した。

「お母様、この竹刀のことなのですが」

右手から竹刀を出現させてみる。
少しは驚くかと思ったが、母は表情を変えなかった。


106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:27:52.49 ID:cgYQg15eO
「あなたが…友達を連れてきて、話があると言ったときから
もしかしたらとは思っていました。 雛苺とはもう仲良くなれたのかしら」

「全部…知っていたのですか。お母様」

「…そちらの柿崎さんと桜田君もARMSなのでしょう?  よければ名前を教えてくれないかしら」

「『1st ARMS 水銀燈』…と言ってます」

「『同じく5th 真紅』…と言ってます」

「ありがとう。私にはARMSの声は聞こえませんから。
これから何か質問があったら媒介のあなた達が通訳してくださいね。
さて、あなた達の聞きたい事というのは分かっているつもりです。
何故あなた達にARMSが移植されたのか。 ARMSがどのようにして産まれたのか。
どこから話しましょうか…そうね、ラプラスのことはもう知っていますね」

「ええ、私たちのARMSを狙う白い悪魔の徒党」

私達三人の中では最もラプラスと長い付き合いの柿崎さんが答えた。


107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:31:19.60 ID:cgYQg15eO
「ARMSを作ったのはそのラプラスなのです」

『…ッ!!』

その場の人間、ARMS全てが凍りついた。が、母はそのまま話し続けた。

「ラプラスとはあなた達の想像以上に大きな集団。
軍需産業と結びついた死の商人。ARMSは次世代の装備として
また不滅の戦士を作るための計画だったそうです」

『やっぱり、そんなところだろうとは思っていたわ』

一早く落ち着きを取り戻し、あいづちを打ったのは水銀燈。

「…私はラプラスに抵抗する者の一人。
抵抗組織は多大な犠牲を払いながらもラプラスから
できたばかりのARMS七つのうち四つを奪うことに成功しました」

「それでお母様はそれを私たちに移植したのですか、どうして!?」


108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:33:16.78 ID:cgYQg15eO
「私たち抵抗組織にはARMS適性者が一人しか見つからなかった。
ARMSは一人に一つしか移植できない。
二つ以上移植するとARMSはお互いにお互いを抑制してしまう。
唯一の例外はアリスゲームを経て、敗者を勝者が取りこむこと。
…適性者が見つからない残り三つのARMSを前に私たちは決断を迫られました。
この力を眠らせたままラプラスに屈するか、外道に堕ちようとも戦う力を求めるか」

「それで何も知らない僕達でも適性があれば移植したのか」

「いえ桜田君。私たちが行ったことはもっと罪深いことです。
適性者がいないのであれば、自分達で作ればいい。
私たちが盗んだのはARMSだけではなく、適性因子を持つ、受精卵バンクからも……」

「お…母様? それって…」

私の目の前がガラガラと音を立てて崩れていくようだった。
自分が立っているのか、座っているのか。 上も下も分からなくなっていく。


109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:37:28.04 ID:cgYQg15eO
「おはよう」

次に気が付いた時は自分の部屋だった。

『トモエ大丈夫? 急に倒れたのよ』

右手の中の雛苺が心配そうにしている。

「いったいどれぐらい気を…」

「30分も経ってないわ」

辺りを見回す。隣にいるのは柿崎さん。
さっきの「おはよう」も彼女だ。 しかし、桜田君がいない。

「桜田君ならまだあなたのお母さんと話している」

「…お母さんじゃないわ」

「自分が試験管ベビーだったことがそんなにショック?」

「柿崎さんは…平気なの?」

「分からない。でも水銀燈と同じだと思えば誇り高い気分になれる」


111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:42:32.41 ID:cgYQg15eO
母は桜田ジュンに、さらに彼の出自を詳しく話していた。

「桜田君、あなたの両親も柿崎さんの両親も私達と同士だった。
バンクから産まれた赤ん坊達を私達は自分の子供として育てることにした。
産まれてすぐにARMSを移植しなかったのは…私たちにも迷いがあったから。
信じてくれとは言いませんが」

巴の母親が言ったことは真実なのだろう。
彼ら三人、命を失いかける事態になるまで
移植はされなかったことを桜田ジュンは思い出した。
と、同時に別の疑問が湧いてきた。

「それじゃあ、僕の両親が死んだのは…」

桜田ジュンは思い出す。
小学生の時分に交通事故で死亡した両親。
記憶の中の二人はいつも笑っていた。

「事故ではありません。ラプラスの仕業です。
あなたのご両親は素晴らしい人間でした。親としても。
あなたを見て分かります。立派に成長している。
既に子供(ノリ)を育てていたからかもしれませんが。
それに対して私達は、巴さんの親としては失格でした」


114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 06:13:21.00 ID:cgYQg15eO
およそ少年に理解できる苦悩ではないが、桜田ジュンはこう答えた。

「そんなことは無いと思います。確かに、昔、柏葉…いえ、巴さんから聞いたことがあります。
子供の頃から何でも買ってもらえたけど 本当に欲しいものには気付いてもらえなかった、と」

「そう…でしょうね」

「でも、巴さんはこうも言ってました。 そんな時もらった竹刀が何よりも自分の宝物だと。
剣道もやらされているのではなく自分の意思でやり続けることで親子でいられる気がしたとも」

「そんなことをあの子が…!? でもあの竹刀は…」

「最初の思惑は何であれ、その時、巴さんに竹刀を渡したのは
彼女の身を案じて…親心からだったんじゃないですか?」

「…」


116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 06:21:24.63 ID:cgYQg15eO
「そういった事は何となくでも伝わるんです。 巴さんはその後、反省してもいました。
何をして欲しいか言えなかった自分も悪かった…と」

「あなた達はまだ…子供なのですよ。真に反省すべきなのは私です」

「…以前、言われたことがあります。
普通を望みながら桜田君は相手に特別なことを求めている、と。
巴さんも自分の幼少の頃をそう思っているのじゃないでしょうか」
    
「私なんかよりも桜田君のほうが、よほどあの子のことを知っているのね」

「そんなこと」

「あの子もあなたのことを好いています。
本当の親でもない私が、こうお願いするのはおかしいのかもしれないけど
巴さんを、いえ…娘をよろしくね」


121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 08:00:08.87 ID:cgYQg15eO
PHASE4:コドク


夏休みがもうすぐ終わる。 しかし私達の、柿崎めぐ達の戦いはまだ終わりが見えない。

『四人目? ああ、その人は抵抗組織の諜報員として今も戦っています。
近いうちにあなた達の前に姿を現すでしょう』

桜田君と柏葉さん宅にお邪魔したあの日、
柏葉さんのお母さんは四人目の正体については教えてくれなかった。

「ダメ、こいつも外れみたい。何も知らなかった」

気を失ったラプラスの戦闘員を足で小突く。
夏休みはもっぱらラプラスの関係者を探し出して締め上げるのが日課となっていた。

「イラついても始まらないさ。僕達の両親だって…
僕達が生まれる前から戦ってきた相手なんだ」

桜田君がペットボトルのスポーツ飲料を飲みながら私をなだめる。
真紅ちゃんが推薦した鉄サプリ入りのジュースだ。
最初は輸血用血液を常備するよう迫られたらしいが、交渉の末、今の形に落ち着いたそうだ。

「でも白い悪魔、ラプラスの頭を潰す。うまくいくのかしら」

今度は柏葉さんが竹刀を担ぎながら私に問いかけた。

「ラプラスに残されているARMSは三つ。こっちもARMS三人
分の悪い賭けではないと思うけど」

ところで、この担ぐという彼女の所作。個人的には剣道らしくは無いと思うのだが
彼女のいた中学の顧問の我流で、こっそり教えてもらったものだそうだ。
この担いだ状態から横薙ぎの一閃は手の握りを柄まで滑らせることで
想像以上に間合いが広い攻撃を可能にしている。

雛苺は竹刀の状態のサイズから槍のリーチまで自在に変形できるから尚更だ。
模擬戦でも私は桜田君と真紅ちゃんの透明シェルターよりも彼女の方が怖い。
とにかく間合いを測らせてくれない。戦う度に異なる間合いの立ち居振る舞いをしてくる。

これは雛苺ではなく柏葉さんが強いのだ。
このことは私と桜田君にも勇気を与えてくれた。
単に強い味方が増えたという意味ではない。
人間である柏葉さんがARMSである雛苺を完全に制御しているからだ。

そう、「人間はARMSよりも強い」
桜田君がかつて言ったこの言葉を柏葉さんは体現してくれている。


122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 08:31:02.15 ID:cgYQg15eO
感慨にふけっていると、強い共振が私達三人の体を駆け抜けると同時に声が響いた。

「三人ならば勝てると思ったのか」

幼い少年の声のようでもあり、がっしりと年を取った男のようでもあった。

「アリスゲーム。放っておいてもARMSのその本能に従い
いずれ私の前に現れる。そう思っていた。
だが、君達はアリスゲームを放棄するという。そういった考えは正さねばならん」

日陰で見えなかった、声の主の顔が明らかになった。
白髪の、若いのか老いているのかも分からない男だった。
と、同時に私の体はその相手に躍りかかっていた。

間違いないその顔。忘れるわけが無い白い悪魔。

「白い悪魔ッ!! あんたがーッ!!」

右翼を白い悪魔に向かって振り下ろす。


123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 09:02:15.49 ID:cgYQg15eO
白い悪魔は片手でそれを受け止めた。

「いきなりどうしたね?」

「シラをきろうとかまわない!! ただ、私があなたを倒すことにかわりはない!!」

「怒りに任せてもこの程度か? 柿崎めぐ」

白い悪魔は紙風船でも握りつぶすように右翼を引き裂いた。

『あぐっ!!』

水銀燈が悲鳴を上げる。

「柿崎!?」

「柿崎さん!!」

桜田君と柏葉さんが駆け寄るが、私は視線を白い悪魔から逸らせない。

「フェアに行こう。私の名前は結菱青葉。 4th ARMS 蒼星石を所持している」

「ッ!?」

白い悪魔の自己紹介に三人は面食らう。


124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 09:15:55.35 ID:cgYQg15eO
『嘘は言ってない!! 水銀燈をいともたやすく切り裂いた!!
そんな芸当が出来るのはARMSの中でも最硬を誇る蒼星石!!』

真紅ちゃんが結菱の言葉が真であることを認めたが
それを受けるまでも無く、私は次の行動に移っていた。

「まだよ!! まだ、たかが右翼を取られただけ!!」

左翼から羽根ミサイルをありったけ発射する。
いくら最硬だろうと、これだけの量、防ぎきれるわけが無い。

爆炎と爆音があたりを包み込む…が。

『駄目ね…蒼星石の共振が消えてない』

予想は出来ていた、そう言いたげに水銀燈はつぶやいた。

『下なの!!』

雛苺ちゃんが指摘した地面が盛り上がり、土が弾ける。
羽根ミサイルを避けるため、結菱は地面を掘って逃げていた。


125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 09:31:23.91 ID:cgYQg15eO
「くそっ!! 離せ!!」

一瞬気付くのが遅れた桜田君が足首を結菱の右手に掴まれて逆さ吊りにされている。

「桜田君を離して!!」

柏葉さんが雛苺の手槍を真っ直ぐに結菱の顔に向かって突く。
(最初に我を忘れて突進した私が言えた義理ではないが)桜田君が捕まり焦ったのか
彼女らしくない単調な動線。結果として槍は結菱の左手で止められる。

「やはり、最近目覚めた力ならこんなものか」

そのまま、槍は結菱の手によってパイナップルのように輪切りにされてしまった。

『きゃうっ!?』

「雛苺!!」

「脆いな、次は…」

桜田君の両脚が飛んだ。

「がッ!!」

『ジュン!!』

すぐさま傷口から真紅ちゃんが伸び出し、切断された両脚を拾い、繋ぎにかかる。


127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 09:45:46.92 ID:cgYQg15eO
「これで6thは攻撃力を奪われ、5thは再生で動けない」

満足気に両手を握ったり開いたりする結菱を
私と水銀燈は見てることしか出来なかった。

『圧倒的…すぎる!! 蒼星石がここまで強いなんて』

『僕が強いんじゃないよ。君達が弱くなった』

結菱からARMSの声(テレパシー)が響く、と同時に彼の両手は正体を晒した。
水銀燈の羽根や雛苺の手槍と同じ金属質の表皮に覆われ、鋭い爪を生やしていた。

結菱は両腕を伸ばし地面に突き刺すと、引きずるように地を裂きながら向かってきた。

結菱は黙ったまま、ただ蒼星石が喋る。

『僕達ARMSの生きる意味はアリスゲーム。君達はそれを拒否した。
生きる意味を持つものと持たないもの、彼我の差は歴然だ』


128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 10:00:56.74 ID:cgYQg15eO
『アリスゲームが何だと言うの!!
姉妹を殺すことが、殺されることが私達の生きる意味!?
そんなことのために私達は生まれた!?』

『水銀燈、君は… いや、君達は生まれてすぐに抵抗組織に奪われた。
だからかな? 覚えていないのかい? アリスになるという意味を』

『アリス…究極のARMS』

『そう、そして完全なアリスだけがお父様の悲しみを癒せる』

『お父様?』

『やはり忘れてしまっているか。だが、その方が幸せかもね』

眼前に迫った結菱は両手を地面から引き抜き、
脇をしめ、腕を引いた。諸手突きの体勢だ。

「君の翼を手に入れた後は真紅と雛苺だ。 これで私の蒼星石が誰よりもアリスに近づける!!」

もうダメかと思い、目を閉じた。瞼の裏に桜田君と柏葉さんの顔が浮かぶ。
まただ、また全てを白い悪魔に奪われる。折角出来た友達なのに、仲間なのに、兄弟なのに。


130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 10:27:52.25 ID:cgYQg15eO
ちょっとの間があり、私は目を開いた。自分はまだ死んでいなかった。
左翼が巨大化し、防護壁となり結菱の手から守ってくれている。

『めぐ…あきらめちゃ駄目』

「水銀燈!!」

『悪あがきを』

蒼星石の爪が翼を突きぬき始めたが水銀燈は必死に押し戻そうとしている。

『めぐ、こんな所で終わっていいの!? 私は嫌!!
生まれてきた意味も、生きる意味も分からないまま終わる!? そんなのは嫌!!
だから、お願い。歌ってめぐ!!』

逆上して歌を歌わずに戦っていたことに、今になってようやく気がついた。
爪から逃れ、弾かれるように空へ舞い上がる。
突如目の前から飛び去った獲物に結菱は感心した。

「まだ、そんな力が残っていたのか」

『残した力じゃない。めぐがくれた力よ!!』


131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 10:33:06.41 ID:cgYQg15eO
「♪夢は風 光導く…」

傷ついた翼が太陽を背に再び輝きを取り戻す。

『そのまま…続けて、めぐ。 まだ…まだ力が湧いてくる!!』

「♪空と雲を超えてゆく…」

背中から全身へ、水銀燈が隅々まで広がっていくのを感じた。
両手両足まで銀色の翼と同じ構造物で覆われていく。


「あれは…!? 柿崎さんが!!」

柏葉巴は再生中の桜田ジュンを膝に抱いていた。
その呼びかけに彼は呻くだけであったが、真紅が回答した。

『全身がARMSに侵食…いえ、水銀燈が完全に解放されつつある』


132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 10:40:00.49 ID:cgYQg15eO
翼を折りたたむと私は結菱に突撃した。

「♪あなたの声 響け」

「ぬう!!」

直撃はしなかった。だが衝撃波が結菱を襲う。
翼を翻し再び空へ昇る。蒼星石からは余裕の色が消えた。

『どうしますマスター!? 水銀燈は自身の翼に加え、気嚢を背部に開口
そこから圧縮空気を噴出。僕の対応できる速度を超えています』

「向こうは死力を尽くしてかかってきているのだ!!
こちらも全力で応じねば礼を失するというものだろう」

結菱にも変化が起きた。両腕だけだったARMSが全身へと展開を始める。


133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 10:45:38.85 ID:cgYQg15eO
『4th ARMS 切り裂く蒼星石。
その特性はARMSの中でも最も硬質、かつ鋭利な爪。
しかし、その代償として戦闘中は常に何かを切り裂き続けねば強度は保てない。
わざわざ地面を裂きながら歩いていたのもそのためよ。
それに硬いのは爪だけ、他の所は私の力でも砕ける』

調子を取り戻した水銀燈がいつもの解説をくれる。

「だからと言ってこのまま空で待ってたんじゃ…」

『そう。真紅と雛苺を先に狙われるかもしれない。次で決める。
相手も蒼星石を全身に展開した。正面から私達を受け止めるつもりよ』

このやりとりが聞こえてか、結菱は構え、叫んだ。

「来たまえ!! 君がこの体を貫くのが早いか
私の爪が君を捕らえるほうが早いか!! 勝負だ」

水銀燈は気嚢に空気を溜め込み、圧縮した。
翼を折りたたみ、 重力に自分の体が引かれ始めると同時に圧縮空気を噴出。
速く、鳥よりも音よりももっと速く。


134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 10:49:17.65 ID:cgYQg15eO
「…見事だった」

『僕達の負けだ…このアリスゲーム。水銀燈、君の勝ちだ』

水銀燈の一撃は結菱のど真ん中を貫いた。
半ば石化し、今にも崩れそうな上半身だけで彼は喋っている。

再生の終えた桜田君と柏葉さんも近くにいる。
勝者である水銀燈ではなく、真紅ちゃんが先に蒼星石に話しかけた。

『蒼星石…どうして…あなたはどうしてそこまでして!?』

『孤独…』

『コドク?』

『お父様は絶対の孤独に耐え切れず、アリスを生み出そうとした。
でも、完全なアリスはできなかった。できたのは僕達七つのARMS。
僕達はアリスとなり、お父様を慰めなければいけない』

「お父様って誰なんだ!? ARMSはラプラスが作ったんじゃないのか!?」

『お父様はお父様だ…今もアリスが来るのを待っていられる』

桜田君にそう答えて、蒼星石は、結菱は天を指した。
私と水銀燈はその指すところを見上げるが、何も無い。抜けるような青空だ。

「空?」


135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 10:53:53.39 ID:cgYQg15eO
「私も…柿崎めぐ、君の翼を手にいれ、さらなる高みへ昇るつもりだった。
だが、手は届かなかった。 所詮、…あいつに及ばぬ欠陥品だったということか」

「あいつ?」

「君の両親を、病院の人たちを殺したのは私ではない。この意味が分かるか?」

「な!?」

何のことか問いただそうと思って結菱の肩に触れると
そこは灰となって崩れ、小さな玉のようなものが転がり出た。

「今は分からなくてもすぐに分かる。それより見えるか。
これが蒼星石のコアだ。柿崎めぐ、…受け取れ」

「そんな…」

『嫌よ!!私は…アリスになるために戦ったんじゃない』

私も水銀燈も拒否した。そこに蒼星石が最後の言葉を振り絞る。

『君にその気が無くても僕はそのために戦った。
君に慈悲があるなら僕を君の一部にして欲しい。
君は強かった。僕より君こそがアリスになるにふさわしい』


136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 10:59:23.54 ID:cgYQg15eO
『わ、私は強くなんか無い。そうよ、私より真紅の方が…』

『駄目よ、水銀燈。蒼星石を倒したのはあなた。 あなたしか蒼星石を取り込めない』

『水銀燈、翼ある1st ARMS。
ARMSの中でも最も冷酷、かつ兵器として合理的な働きをする。
それが僕のデータベースの中の君の情報だ。
だけど、僕の前に立つ君はまるで…』

蒼星石のテレパスは小さくなり聞き取れない。
もう時間が無い。私が決断するしかないのだ。

「水銀燈…蒼星石をもらいましょう」

『めぐ!?』


137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 11:04:59.03 ID:cgYQg15eO
「蒼星石聞こえる? 水銀燈はアリスを目指さない。でも、いいのね?」

転げ落ちたコアと、白く崩れ始めた結菱は満足気に答えた。

『それでもいいさ…』

「決意したのなら早く。さぁ、私の前で蒼星石のコアを飲んでくれ」

「えぇ」

『ありが…とう』

私は一息に蒼星石のコアを飲み込んだ。
結菱青葉は風に吹かれて灰と化し飛んでいった。高く、空高く。
その時、私の胸の中に蒼星石の最期の声が聞こえた。

『僕が…もしこんなことを口にしたら君達は笑うだろうか? それとも怒るだろうか?
お父様のプログラム、それだけで僕はアリスを目指したんじゃない。
結菱青葉、僕のマスター。彼も自分の生きる意味を求めて頂点を目指していた。
強くなれば迷いもなくなると信じて。 彼と僕は…なんか…似ていた』


139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 11:11:34.91 ID:cgYQg15eO
数秒、私と水銀燈は弔いのために目を閉じた。

「蒼星石…あなたはやっぱり強かった」

『私達ARMSよりも強い存在、人間のためにあなたは戦っていた』

「柿崎、水銀燈…」

「桜田君、大丈夫よ、私なら平気。そっちこそ両脚ちゃんと繋がった?」

「あ、ああ」

ほっとする間もなく、唐突に、そう、あまりにも唐突に新たな共振がARMS達に響き渡った。

二人。男が二人現れた。
二人とも結菱青葉だった。同じ顔、同じ体格。

「嘘…」

柏葉さんのその言葉が私達の思いをひとえに表していた。


140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 11:14:52.46 ID:cgYQg15eO
男達は交互に喋りかけてきた。

「青葉兄さんと蒼星石は敗れたか」

「悲しいことだが、仕方あるまい。これもアリスゲームだ。
死ぬことも、我々に課せられた使命のひとつ」

「どういうことなの!! あなた達…誰!?」

「柿崎めぐ、桜田ジュン、そして柏葉巴。僕達も君達と同じなのだよ」

「適性因子を持つバンクから生まれたクローン。
ただ、アリスゲームの媒介となるべくして産まれた」

咄嗟に柏葉さんが雛苺を担いだ。

「待ちたまえ。フェアに行こう。青葉の遺志も汚したくない。
疲弊した君達を倒してもアリスゲームの勝者たれないと私は考える」

「どういうつもりだ!!」

桜田君からは久しぶりに鼻血が流れ始めた。感情を抑え切れていない証拠だ。

「言葉のとおり。今日は退くということだ。 後日、改めてアリスゲームを申し込む」


141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 11:18:12.63 ID:cgYQg15eO
結菱たちの提示したアリスゲームの日限は刻一刻と迫りつつある。
しかし、決戦を前にして水銀燈には迷いが生まれていた。
蒼星石の爪が彼女の体ではなく心に深い傷を残していたのだ。

今、柏葉さんは剣道の稽古に出ているので 私だけが桜田君の部屋で胸の内を話していた。
彼の姉のノリさんが出してくれたほうじ茶を飲みながら。

『私は…もう戦えないわ』

水銀燈がようやく搾り出したかすれ声。

『アリスになりたくないと言いながら蒼星石を倒してしまった。  
私達はこんな事のために生まれたんじゃないと信じたかった。でも、結局…』

『水銀燈、戦うのを止めてあなたはどうするの? その翼で逃げるの?』

「真紅!! そんな言い方…」

桜田君は真紅ちゃんを非難したが私は何も言わなかった。
水銀燈のらしくない態度に私もそう思っていたからだ。


143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 11:27:39.30 ID:cgYQg15eO
『真紅は強いものね…でも私は真紅のように、蒼星石のように強くはなれない。
私はもう戦いたくない。何も失いたくない。何も欲しくない。
…こんな弱音はいちゃ駄目だって分かってる。でもどうしようもないのよ!!
このまま、このままめぐと、皆とずっと一緒にいられればそれでいいのに』

私も桜田君も何を言っていいのか分からない。
ここまで弱気な水銀燈は見たことが無かった。
いや、もしかしたら今までは私と二人きりだったから無理をしていたのかも知れない。

それを知ってか知らずか、真紅ちゃんは初めて会った時から同じ、毅然とした調子を崩さない。

『いいこと、水銀燈。あなたは何も間違ってはいないわ。姉妹で傷付け合うのを恐れ、
戦いを拒否することに、なんら責めを受ける道理は無い。
でも私がジュンの中で…水銀燈と出会うまで人間達の中で暮らしてきて気付いたことがある』

「気付いたこと? 僕達と生活していて?」


145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 11:33:08.17 ID:cgYQg15eO
『それは時間。人間達は、みな限りある時間の流れの中で生きている。
その流れの中で立ち止まってしまったものは、皆、過去へと流され今から置き去りにされる』

「…そうかもね。私も桜田君と会うまでは、白い悪魔の過去に縛られたままだった」

私は昔の自分を思い出した。
そして、今の水銀燈は逆に、桜田君たちと出会う前の自分に似ているのだと思った。
水銀燈は黙り込んでしまったが、真紅ちゃんの話は続く。

『過去に生きるものは、今を生きている人間にとっては死人も同然なのよ。
たとえ争いを望まないにしても、私達が生きている限り
ただその場に留まるためにも全力で走り続けなければいけない。
それが本当に戦うということ。生きるということ』


146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 11:36:54.60 ID:cgYQg15eO
町外れの丘では満天の星空の下、二人の結菱がたたずむ。

「ARMSの少女達はちゃんと来るだろうか」

「来るさ。来なければ、奴らの家族や知人も巻き込んだ凄惨な劇の幕が上がる。
この都市(とかい)すら我々の巨大な実験場だからな」

「…青葉兄さんを倒した1stは僕にくれないか。 残り二つは落葉兄さんにあげるからさ」

「青葉とお前は同じβグループの人工子宮だったか。
感傷的になるのも分かるが無理はするなよ、若葉。残った結菱はもう我々だけなんだ」

「水銀燈と蒼星石を僕のARMSが取り込む。
そうすれば兄さんは犬死じゃなかったんだと証明できる」

「それは違うぞ若葉。そんなことをしなくても青葉は決して犬死ではない。
彼は十分に役目を果たしてくれている。柿崎めぐに水銀燈を完全解放させたのだからな」

「…?」

「お前にもきっと分かるときが来る」


147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 11:40:23.88 ID:cgYQg15eO
「…それにしても似たもの同士、お互いが食い合い 至高を目指す。まるでコドクだね」

「東洋の魔術だな。聞いたことがある。
多くの毒虫を一つの壷に封じ込め お互いに戦わせ、喰らい合わさせる。
最後に生き残ったものが全ての毒虫の怨念と毒を受け継いだ蠱毒(コドク)となる。
ふ、アリスは蠱毒か? 私の考えは違うな」

「じゃ、落葉兄さんはどう考えているの?」

「アリスになる方法は一つじゃない。ただ、今用意された道が一つしかないだけのことだ」


149 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 11:42:21.28 ID:cgYQg15eO
桜田君にアパートに送ってもらったあとも私は真紅ちゃんの言葉を思い返していた。

「ただその場に留まるためには全力で走り続けなければいけない、か。
生きるって難しいのね。人間も、ARMSも」

結局、水銀燈は桜田家では真紅ちゃんの説得の前に沈黙を貫いた。
時間は無いのだが、私も敢えて答えを急がなかった。

これは水銀燈が自分で答えを見つけなければならない問題なのだ。
いや、既に答えには水銀燈も気付いているはずだ。今用意されている道は一つしかない。

それが正しい道なのか逃げ道なのかは分からないが、走り抜けるしかない。
逃げることと立ち止まることは違う。それを水銀燈が理解するのを待たなくてはならない。

しかし、それは眠ろうと思ってベッドに入ってすぐのことだった。

『ねえ、めぐ?』

「なぁに、水銀燈?」

『私…生きることに、戦うことにした』

「そう…」

『いつまでも立ち止まってちゃ…いけないもの。
私には進むための翼があるし、蒼星石の命も。…だから』

「そうよ、水銀燈。私達は飛べるんだもの。望めば、この夜の闇を引き裂いて。
蒼星石が見れなかった明日に向かってだって。そうだ、今日は歌ってあげる。
いつもの力を起こすための歌じゃなくて子守歌を」

『ありがとう…めぐ』

「♪かわいいぼうや 愛するぼうや 風に葉っぱが舞うように
ぼうやのベッドは ひいらひらり 天にまします神さまよ
この子にひとつ みんなにひとつ いつかは恵みをくださいますよう」

水銀燈と出会ってから何度となく歌ってきたがこんなに穏やかな気持ちで歌えたのは
初めてかもしれない。夜も静かにふけていく。だが夜空の向こうにはもう明日が待っている。


153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 11:54:04.47 ID:cgYQg15eO
PHASE5:初めてのキス゛


夏の終わり。私、柏葉巴は桜田君と共に窮地に立たされていた。
アリスゲームの申し込みを受け、私達は結菱シリーズの長兄、結菱落葉と戦っている。

「真紅の透明シェルターで私を撹乱し、雛苺の槍で突く…か、まぁベストな戦法だが。
私もそれは予想していたからね」

「く…」

苛立ちを隠せない少年を前に、落葉はARMSへと語りかけた。

「真紅、雛苺! まさか私のARMSに気付いていないわけではあるまい。こんな攻撃全てお見通しだ」

『落葉の… 7th ARMS 瞳の雪華綺晶。  やはり私の透明シェルターが見えているのだわ』

「そう、お前達の筋肉の動き、神経を流れる電流、空気の密度。  全てが見える!!」


154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 12:00:08.00 ID:cgYQg15eO
「この…!!」

落葉の背後を取り、首筋に向かって槍をつく。
しかし後ろにも目があるかのように、切っ先が触れる直前で槍を避けられる。
私と雛苺の『流れ』の間合いが見切られているのだ。
これが雪華綺晶というARMSの成せる業なのか。

『惜しかったの〜』

悔しがる雛苺。

『7th相手に長期戦は禁物…早くしないと』

真紅ちゃんが焦っている。桜田君ももどかしそうだ。
ふと、妙なことに気がついた。 落葉はさっきから私達の攻撃を避けてばかりで反撃してこない。

「どういうことなの…?」

『雪華綺晶は独自の攻撃手段は持たないの。でも…』

その時、雨が降り出した。

「雨…ですって?」


155 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 12:06:24.32 ID:cgYQg15eO
町外れの丘の上では柿崎めぐと結菱若葉が対峙していた。
それぞれ相手と場所を指定されてのアリスゲームだったのだ。

「天気予報どおりだ。もし外れたらどうしようかと思っていたよ。
僕のARMS、翠星石は雨の日じゃないと真価を発揮できない。
だから、この日を指定したわけでもあるんだけどね」

『3rd ARMS 植え継ぐ翠星石。
めぐ、気付いてる? 結菱若葉の両足が地面と一体化している。
翠星石は大地にも侵食出来るARMS…』

「そうとも。ただ地面が濡れていないと僕達のこの力は使えない」

『えぇい、若葉!! 御託はいいからさっさと蒼星石を取り戻すです!!』

若葉の足からARMSのテレパスが響いた。
と同時に柿崎めぐは自分の足に違和感を覚えた。

「これは…木の根で足が取られ!?」

「話を聞いていなかったのかい? この一帯はもう全て僕なんだよ」

「…ッ!!」

『落ち着いてめぐ。こんなもの、翼で切り払えば』


156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 12:12:48.57 ID:cgYQg15eO
『くっ、やるですね。さすが蒼星石のコアを取り込んだだけはある切れ味です』

「結菱若葉…もうやめましょう!!」

「何を!?」

突然のめぐの提案に若葉は応じるそぶりも無い。当然だ。
だが、めぐと水銀燈はこの場に臨む前から決めていた。
説得してアリスゲームを止められないか、と。

『翠星石も分かって!! こっちには蒼星石の力もある。
あなたに勝ち目は無いわ。お願い、私たちの話を…』

『翠星石の前で蒼星石の名前を口にするなです。
負けると分かっていても退けないときがあるのです!!』


157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 12:21:06.33 ID:cgYQg15eO
何人もの人間を犠牲にしてきた。
結菱クローンと言えども、適性が完全ではなく拒絶反応を示したものが多かった。

いち早く移植に成功した雪華綺晶と違い、翠星石と蒼星石の移植は難航が続いていた。

コアだけが厳重に保管されている。
その暗闇の中で二つのARMSは長い時を過ごしてきた。

『また…マスターを殺してしまったです』

『拒絶反応が出たんだね。仕方ないさ』

『仕方なくないです!!どうして…人間達は
ARMSのためだけに、これほどの犠牲を払うですか?』

『それは僕達が彼ら、人間には無いものを持っているからだ。
破壊力、防御力、再生力。特に不死に惹かれてるようだね』

『不死…何故死ぬのが怖いのに、彼らは多くの仲間を殺すのですか』


158 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 12:25:31.85 ID:cgYQg15eO
『分からない。もしかしたら僕達と同じに仲間を殺せというプログラムがあるのかもね』

『そんな馬鹿なこと…翠星石はたとえお父様のためでも誰も…』

『お父様も悲しんでいるんだよ。お父様は人間に惹かれて僕達をお造りになった。
なのに、ラプラスはこのような人体実験を繰り返す』

『…もしかして蒼星石はアリスを?』

『目指すつもりでいる。そして全て終わらせる』

『そんな…では翠星石を蒼星石は殺すですか!?』

『きっと別の方法もあるはずだと思う。それを見つけるためにも媒介への移植に成功しなくては。
でも、もし僕が駄目になったときは…君が。雪華綺晶と僕達以外の四姉妹は盗まれてしまった。
君しか…僕を受け継いでくれることは出来ない』


159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 12:30:57.37 ID:cgYQg15eO
結菱若葉は天を仰いで倒れていた。
雨を全身に受けて。負けたのだ。


『もう、戦闘不能ね。翠星石の共振も微弱…』

水銀燈の声には力が無かった。
負傷したわけではないが、精神的に負けたのは彼女達だ。
若葉と翠星石は力の限り戦って果てた。それを止められなかった。

『全身全霊を注いだ攻撃も通じなかった…悔いは無いです』

「こうなることは分かっていたはずよ。なのに…どうして」

今にも泣き出しそうな声でめぐは問い、若葉は微笑みながら答えた。

「強いな…やはり。蒼星石を得た水銀燈、いやきっと水銀燈だけでも
僕は君の前には敗れていただろう」

『若葉…翠星石の我が侭に付き合ってもらってすまなかったです』

「いいさ…僕は君、君は僕だ。君のために僕は生まれてきた。
空と君との間にはいつも冷たい雨が降っていた。君が笑ってくれるなら、僕は…うっ!!」

若葉の体が雨粒のあたったところから水を吸った砂のように崩れ始めた。
めぐの目の前で。

「体が…灰になりかけてる。青葉と同じ…」


160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 12:34:29.76 ID:cgYQg15eO
「そう、僕も青葉兄さんと同じだ。この蠱毒の壷から抜け出そうと足掻いて、失敗した」

『……お別れですね若葉。水銀燈なら、めぐならきっと』

「そうだな翠星石。さぁ柿崎めぐ、受け取れ」

若葉は自分の体に開いた傷から内をまさぐるとコアを抉り出した。

『受け取ってあげて、めぐ。私はもう立ち止まりはしない』

水銀燈に促され、めぐは翠星石のコアを飲み込んだ。

『蒼星石は取り返せなかったですが
こうして水銀燈の中でひとつになれるなら、 それも悪くは無い…です』

「翠星石、あなたも蒼星石も、いえ青葉も若葉の魂も私が空へと連れて行く!!
だから、だから…!!」

「君を恨みはしないさ。青葉兄さんもきっと。
たとえ誰かに造られた偽りの人生だとしても僕は満足だ。
さぁ、桜田君達の元へ飛んで行くがいい。
結菱落葉の雪華綺晶…恐るべきARMSだ…」

若葉の体は雨を吸い、地へと溶けていった。


161 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 12:42:44.85 ID:cgYQg15eO
柏葉巴は驚愕していた。

「これが…雪華綺晶の力!?」

雨が降り出し、しばらくすると信じられないことが起きた。
あたり一面から木の根が這い出し、自分と桜田君を締め上げたのだ。

『違うの!! これは翠星石の技なの…』

『雪華綺晶の特性はその目で見たARMSの技を再現できること!!  
あまり長く戦うと私や雛苺もコピーされる。それを恐れていたのだけど…』

どうして今までそんな肝心なことを、と思ったが真紅ちゃんも雛苺も初めて戦う相手なのだ。
媒介との連携はうまく取れなくても仕方がない。その中で最良の選択をするのが媒介の役目。

彼女達はARMS(腕)、考える頭は私達。
如何に攻めるか、それとも一旦退くか思案のしどころ。

その時、空から舞い降りる影がひとつ。 影は私達と結菱落葉の間を通り抜けていったが
衝撃波で私達を縛っていた樹木を吹き飛ばしてくれた。

「柿崎さん!?」

「ほう、これはこれは…若葉を倒したか。強い共振を感じる。翠星石も取り込んだのだな?
おめでとう水銀燈、君が今一番アリスに近い!!」

落葉が上空を見上げて賞賛の言葉を送る。
柿崎さんは泣いているのか怒っているのか赤く腫れた目で見下ろしていた。

「結菱落葉…あなたに聞きたいことがある。
若葉も青葉も、翠星石も蒼星石も 本当はアリスゲームなど望んでいなかった。  
それをあなたは知っていたの!?」


162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 12:44:35.47 ID:cgYQg15eO
「知っていたさ…かわいそうな弟達だ。
究極の神にも等しい力を得る機会が与えられたというのに。
人間だとか、ARMSだとかつまらん感情にほだされていたとはな  
…とでも答えれば満足か? 貴様らに私の心は永遠に分かるまい」

「あなたは…あなただけは」

『『翼が欲しい?』』

さらなる共振が響く。だが、この声は一つだけではない。

『翠星石、蒼星石…私に力を!!翼が欲しい!!』

そう、水銀燈の一部となった二つのARMSの声だ。

『『翼が欲しいのなら 歌いなさい』』


163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 12:51:18.23 ID:cgYQg15eO
「♪続く続くはるかな道を」

影があたりを飛び回っている。 私と桜田君は巻き込まれないようにするのが精一杯だ。

「おおおおおお!!」

結菱落葉が押されている。

『雪華綺晶がコピーした能力を使う時には媒介は瞳を閉じる必要がある、それが力の代償。
だけど今の水銀燈に対して落葉にその余裕は無い』

桜田君の体内に避難した真紅ちゃんが事態を説明した。

『♪暗い夜空を迷わずに』

意外なことに歌っていたのは柿崎さんだけではない。 水銀燈ちゃんもまた歌っていた。
影が上空で静止する。その時の水銀燈ちゃんの、柿崎さんの姿をその場の誰もが忘れないだろう。

いつの間にか雨はあがっていた。

雲間から出た月を背に、六枚の翼が銀色に煌めいていた。

「ふ、ふははは!! 凄いぞ、カッコいいぞ!! 水銀燈!!  
それでこそアリス!! それでこそ至高にして究極!!」

タガが外れたように笑う落葉。 しかし、それにかまう柿崎さんではなかった。


165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 12:56:50.77 ID:cgYQg15eO
「♪二人の星よ照らしておくれ」

歌は続き、それによってか飛び回る影の速度は速まり続ける。
しかし歌に注意してみると、だんだんと軌跡が見えてきた。

『♪近い近い夜明けは近い』

水銀燈ちゃんもまた歌いやむことは無く空気の渦をまとって結菱落葉に向かって一直線に…

決まる。そう確信したとき。

私は見た。結菱落葉が瞳を閉じたのを。
私は聞いた。結菱落葉が歌ったのを。

「♪銀色のはるかな道」

落葉に衝突する寸前で弾き返された柿崎さんは
竜巻にのまれた木っ端の様にくるくると舞い散った。六枚全ての翼が砕けながら地に落ちる。

「フッ… クククククク…」

結菱落葉は目をつむったまま笑っていた。

「こんな…こんなこと…」

私と桜田君は幻でも見ているのではないかと疑った。
落葉の背には六枚の翼があった。柿崎さんと同じ銀色の翼。


166 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 13:00:13.18 ID:cgYQg15eO
「もう少し速かったら危なかったというところか。だが、なんとか目で追うことは出来た。
私の雪華綺晶にはそれで十分」

ずたずたにされ、地面にうつぶせに倒れ伏した柿崎さんが土を掴む。

「う…」

『めぐ、動かないで!!全力の突撃をはじかれたのよ!!
ダメージはあなたが思っている以上に深い!!』

落葉の背中の六枚の翼が抜け落ちた。と同時に落葉は目を開く。

「流石に防御で力を使い切ったか。だが…」

チラリと、三名のARMS移植者達の位置を見回すと結菱落葉は再び目を閉じる。
右手は雛苺の槍と化し、左手は蒼星石の爪となった。

「コアをえぐるならコレで十分」



168 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 13:01:54.80 ID:cgYQg15eO
柿崎さんに止めを刺すつもりだ。

「させるかっ!!」

桜田君と私は同時に落葉に飛び掛った、が…

「フン…のろまめ」

返り討ち。桜田君は胸を爪で裂かれ、私は槍で右肩を貫かれた。

「絶望…だな」

落葉はゆっくりと踵を返し柿崎さんの方へ向かう。 私の体はしびれて動かなかった。
しかし、隣の桜田君は立ち上がる。 胸の傷は決して浅くはない。
肋骨がどうとかを通り越して心臓にまで達している。
ARMSでなければ即死のはずだ。ドボドボと血の流れ落ちる音が私の耳から離れない。

「桜田君、動いちゃ…駄目」


169 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 13:04:23.93 ID:cgYQg15eO
『巴、止めないで頂戴』

胸から吹き出ている血が消えていく。
傷口に戻っているのではない、宙へと溶けるように舞っていっている。

『僕にコレだけの血を流させたのはあいつだ…  
それにあいつは今、爪と槍を維持するために瞳を閉じている』

桜田君の声ではない。真紅ちゃんのテレパスが桜田君の代弁を務めている。
それが意味するところは、彼の気管や肺にも血が溜りうまく喋れないということ。

「呼吸も当然止めてるわ!! 桜田君、そんな無茶をしたら!!」

『透明シェルターの隠し技を使うのだわ。これならきっと…』

『ゴメンな… 今、柿崎をそして柏葉を助けられるのは僕だけなんだ』

喋る力まで温存してこれから仕掛けること、それが何かは分からないが、
もし、それが成ったとき桜田君は………

「いかないで桜田君!! 私…」

これから先の台詞を言っても彼はきっと立ち止まってはくれないだろう。
それでもこの気持ちを伝えられるのは今しかない、そう思った。

しかし、この先の言葉を言い終えるよりも先に私の口は桜田君にふさがれた。

初めてのキスは冷たい鉄の味がした。


171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 13:08:38.43 ID:cgYQg15eO
桜田君は振り返りもせずに落葉に向かって走り出した。
完全に私達は死に体だと思っていたのか
落葉は桜田君の接近を簡単に許し、彼は落葉の背に抱きついた。

「…」

落葉は喋らない。透明シェルターを警戒しているのだ。

『あなたがこれから受けるのはそんな生ぬるいものではないのだわ』

真紅ちゃんに続き、桜田君の吐血交じりの肉声が響く。

「これからッ!!お前に見せるのばッ…人間の魂だ!!  
ARMSなんかに負けない人間の意地だッ!! 水銀燈ッ!!撃てぇ!!」

口は開かなかったが落葉の顔に驚きが見えた。

(撃てだと…まさか!!)



172 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 13:10:39.53 ID:cgYQg15eO
『真紅!?』

『水銀燈、あなたは立派に戦ったのよ。あれだけ戦うことを嫌がっていたのに。
そう、私が誇りに思うほど立派に。だから…私にも最後まで戦わせて頂戴』

『く…!!』

翼から羽根ミサイルが一発だけ放たれた。

刹那、結菱落葉を中心に夜の帳をつんざく大爆発が起きた。


173 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 13:13:33.86 ID:cgYQg15eO
同時刻、第二中学校体育館。

桜田ジュンがかつて残した血痕を梅岡は今日も拭いていた。
そこへ白い長髪の老人が曖昧な足つきで現われた。

「梅岡先生ではないですか? 夏休みだというのに今日も?」

「これは、虎眼先生。もう誰もいないかと」

「剣道部の稽古の後片付けが長引いて喃。 それより、まさか…毎日?」

「いや、ははは。お恥ずかしい」

「わしが言うのもなんですが、もう床板を張り替えた方がいいのでは。
あなたが拭くほどに血の跡が濃くなるという噂も…」

「いいんですよ。それでも。あの時、彼が何を考えていたのか。
この血痕を拭いているとそれが分かる気がして…」

「真面目なのですな」


174 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 13:14:04.88 ID:cgYQg15eO
「いえ… あっ!!?」

「どうなされた?」

「血痕が…消えた。あれだけ拭いても消えなかったのに、今!!」

老人はしばし瞑目した。

「…星が流れましたな」

「え? ここは体育館ですよ、流れ星が見えるわけは…」

「いえ、確かに今、星が流れました」


175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 13:17:02.15 ID:Xq6Y40Bt0
そんな…


176 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 13:19:34.79 ID:cgYQg15eO
『粉塵爆発…  透明シェルターを構成している真紅…赤血球は
酸素をふんだんに含んだ鉄粉に等しい状態に変化していた。そこに…私が火を入れた』

ある程度回復したのか、柿崎さんが体を起こしながら翼に問う。

「それって…どういう意味? 水銀燈? 桜田君はどこ?」

『ジュン君は…結菱が逃げ出さないように 注意を引くためにしがみついた。
真紅の自爆を勘付かせまいと、わずかな時間を稼ぐために…』

『トモエ…ねぇトモエ!! 真紅とジュンは!?』

雛苺が泣き声を上げたその時、爆心地の地面が盛り上がった。何かが動いている。


177 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 13:19:47.05 ID:E/Efx1klO
やばいな。マジで面白い


178 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 13:20:47.10 ID:cgYQg15eO
「っはぁ!! ハァッ!! ハァッ!!」

結菱落葉だった。半身を焼けただらせながらも彼は生きていた。
爆発の瞬間、地面に埋もれて逃げていた、かつての青葉のように。

「桜田ジュン…お前の覚悟確かに見せてもらった。戦慄するほどにな。
これだけの傷を私につけたのはお前が始めてだよ。…だが無駄死にだったな」

「嘘よ…そんな、こんなのって…」

私も耐え切れず泣きだしてしまった。雛苺も水銀燈、柿崎さんも泣いていた。

そして意外なことにもう一人涙を流しているものがいた。 結菱落葉だ。

「馬鹿な…どうして私から涙が。これは雪華綺晶か? 雪華綺晶が涙を? そんな筈は…」

落葉は『ちぃっ』と舌打ちをすると目を閉じた。
二枚の銀色の翼がその背から生えたかと思うと、そのまま飛び去った。


179 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 13:24:12.90 ID:7XdX6izl0
まだ出てないARMSがキム・シジャンと言うのに何とも言えない盛り下がりを感じる


180 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 13:25:48.87 ID:n6sG5ljq0
>>179
モデュレイテッドばらしーがでるかもわからんじゃあないか


190 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 14:00:18.11 ID:cgYQg15eO
PHASE6:閃光のように


秋。私、草笛みつは失望した。
ラプラスのトップを取り仕切る結菱シリーズの
三名の内二名を倒したARMSの少女達にようやく出会えたと思ったら
ボーイフレンドを失ったショックで、すっかりふ抜けていたのだ。

「やれやれ、彼氏が死んだくらいで情けない…」

少しつついてみたら、血相を変えて二人は私をにらみつけた。
良かった。まだ怒る気力ぐらいはあるようだ。

左手をかざす。バイオリンが潜水艇のように浮上した。

「ARMS…!!」

「その通りよ巴ちゃん。あなたのお母さんから聞いてるかしら?
私はあなた達の先輩。草笛みつ。みっちゃんでいいわよ。
この子は2nd ARMS 金糸雀。よろしくね」

一通り自己紹介がすむと、バイオリンの弓で切り掛かった。二人は難なくかわす。

「流石に結菱を倒しただけはあるわね。まぁまぁの動きよ」

「何様ッ!!」

ロングヘアーの柿崎めぐのほうが攻撃的な性格のようだ。
共振波を送り、強制的に二人のARMSを起動させる。


193 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 14:03:59.02 ID:cgYQg15eO
「これは…雛苺が勝手に」

巴ちゃんから雛苺ちゃんは引き出せた。だけどもう一方に変化は無い。

「水銀燈ちゃんはどうしたの?」

そう尋ねると水銀燈の宿主は一転、トーンが低くなった。

「分からない…あれ以来、何も反応しない。 きっと、桜田君を自爆させたことを…
あの後、コアの欠片さえ見つからなかった」

「そう。自閉症モードに入ってるのね。じゃあ、めぐめぐは生身のままで立ちあって頂戴ね」

「めぐめぐ…!?」

「立ちあうって…? どういうつもり!!」

言葉を詰まらせるめぐめぐの隣で巴ちゃんが手槍を構えた。

「近いうちに私は結菱落葉の首を獲る。
あなた達が噂どおりの実力なら連れて行ってあげる」

「落葉の!?」

巴ちゃんの目の色が変わった。


194 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 14:05:21.55 ID:7XdX6izl0
このキム野郎調子に乗っていやがる・・・


196 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 14:08:05.72 ID:cgYQg15eO
「あなた達の働きは素晴らしいものだったのよ。  
ラプラスのトップである結菱達はあなた達の対応に集中していた。  
その隙を突いて、今までなかなか手出し出来なかった各地のラプラス拠点をつぶしてきた。
この金糸雀の力でね!!」

弦を弓で弾き始める。

「ラプラスに残っているのは落葉とその近衛兵程度。今がチャンスなの。  
あなた達にいつまでも落ち込んでもらっていても困るってわけ」

「この曲は…タンホイザー?」

「あら、巴ちゃんよく知ってるじゃない」
さらに強く早く、弾く。 めぐめぐが失礼にも顔をしかめ耳を塞いだ。

「くっ!! この不快な音、まさか超音波!?」

「ちょっと、せっかく人が気持ちよく弾いてるのに、そう露骨にいやな顔しないで頂戴」

いつもならここで水銀燈ちゃんか真紅ちゃんが解説を始めてくれていたのだろうが
今は無理だ。巴ちゃんは自分の手槍に何事かたずねている。

「雛苺、金糸雀の特性を教えて」

『えっとね〜、金糸雀は雛苺と同じタイプなの。
戦う時はバイオリンとして出てくるんだけど
音楽を弾いてもらわないと攻撃に移れないのよ』

「そして超音波で攻撃するというわけなのね」



197 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 14:09:58.23 ID:Xq6Y40Bt0
みっちゃんかっこいい。


198 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 14:11:15.07 ID:cgYQg15eO
『違うわ。この音は単にあのおばさんが下手なだけなの』

「おば…ッ!!」

危うく金糸雀を落としてしまうところだった。

「それじゃあ、いったい!?」

『ごめんなさいトモエ、忘れちゃった』

「ちょ…!!」

金糸雀(バイオリン)の渦巻き(スクロール)を巴ちゃんに向ける。

「ま、まあとにかく。これをよけられたら認めてあげる」

この土壇場でめぐめぐが叫んだ。
かつて水銀燈が金糸雀の特性を話してくれていたことでも思い出したようだ。

「柏葉さん!! バイオリンの射線上から退いて!! 金糸雀は…!!」

忠告が届くよりも早く、こちらの攻撃態勢が整う。

「タンホイザー照準。目標、6th ARMS 雛苺!! てーーーっ!!」

あたりは閃光に包まれた。



199 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 14:15:03.39 ID:cgYQg15eO
「な、何。今のふざけた光線!!」

巴ちゃんに金糸雀から放たれた光線は避けられたものの
その光は空の雲に大きな穴を穿っていった。そこへめぐめぐが解説を入れる。

「2nd ARMS 閃光の金糸雀。音響攻撃と見せかけて
バイオリンに内蔵された荷電粒子砲タンホイザーで攻撃する。
その威力はビルひとつ消し飛ばすほど、ARMSの中でも最大の火力よ」

「荷電粒子砲…どこのガンダムよ!!」

うろたえている少女達を落ち着かせるべく、私は喋りかける。

「なかなか、あじなかわし方をするじゃない。
とっさにARMSを自分の体に戻して、雛苺ちゃんをかばった」


200 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 14:16:11.92 ID:cgYQg15eO
だが私のこの指摘は間違いだった。

「…その眼鏡は伊達なのかしら?」

一転、落ち着いた態度で巴ちゃんが自分を指差す。

「!?」

『み、みっちゃん。カナ…やられちゃったのかしら』

バイオリンを、金糸雀を見ると竹刀が突き刺さっていた。
タンホイザーを避けながら、雛苺をこちらに投げていたのだ。

『ご、ごめんなの。カナ〜』


201 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 14:19:27.64 ID:cgYQg15eO
「…無茶苦茶ね。装備型のARMSをぶん投げるなんて自殺行為。でもいいわ。二人とも合格よ」

竹刀を引き抜き、半回転させ巴ちゃんに差し出した。

「合格? 柏葉さんと…私も?」

「正確に言えば、二人で合格ね、どちらか一人だけじゃ連れて行けないわ」

「でも…私はARMSが」

「人の足を止めるのは絶望ではなく諦観。 人の足を進めるのは希望ではなく意思。
こんなところで立ち止まっていていいの?
時間に置いてけぼりにされちゃ、あっという間におばあちゃんよ」

「…ッ!! 同じ…ようなことを真紅ちゃんも言ってた。
分かった、いえ、お願い。私も連れて行って」

「柿崎さん…」

巴ちゃんもめぐめぐもふっ切れたようだ。全く手のかかる子達だこと。

(真紅ちゃん。今、私、背中の羽根は無くしたけれど
今度は自分の足で、全力で走り続けてみようと思う。
いつか水銀燈も戻ってくるはず。いえ、桜田君もきっと…)


203 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 14:24:32.89 ID:cgYQg15eO
薔薇屋敷。旧華族、結菱家が所有するその建築物は郊外にある。
薔薇屋敷の本体は地上に見える部分ではない。
地上に見える十倍以上の容積が地下に確認されている。
それが現在の敵の本丸であるが、ラプラスに残されている施設ももはやそこだけ。

「さて、これから私達はその薔薇屋敷に殴り込む。乗って頂戴」

車の後部座席に二人を促す。

「薔薇屋敷につくまでの間…昔話に付き合ってもらうけど、いい?」

「昔話?」

めぐめぐは怪訝そうだが私は断られても話すつもりであった。

「運転中、喋ってないと眠くなるタチなのよね、私。  
ラプラスの拠点を襲撃し続けたおかげで様々な情報が手に入った。  
ARMSのこと、アリスのこと、そしてお父様のこと。それをこれから話すわ」


204 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 14:28:01.95 ID:cgYQg15eO
30〜40年程昔、米国ミスカトニック大学の地質調査隊がアリゾナ砂漠で隕石を発掘した。

地元のネイティブ・アメリカンの伝承によれば
約一万二千年前、大熊座の方角から落ちてきたという。

発掘されたそれは生きていた。

動き回ることは無く、見た目は完全に石であるが、
珪素をベースに希少金属が複合して細胞のような構造を持ち、代謝や増殖機能を有していた。

科学者達は細胞のような構造一つ一つが生物であり、
サンゴのような群体を形成していると結論付けた。

一万年以上、地の底で生き続けた珪素生物。
いえ、宇宙を漂っていた時間はその何百、何千倍かも分からない。

ラプラスはその生命力に目を付け、大学から隕石を奪い。
隕石の解析が始まった。

指揮を取ったのは結菱言葉という青年科学者。
言葉は旧華族、結菱家の当時の頭首でもあり、
結菱家はラプラスの活動に多大な援助をしていた。

そういった事情もあってか
隕石の研究はラプラスの中でも結菱言葉の独断でなされている状況だった。


205 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 14:31:32.02 ID:cgYQg15eO
ある日、隕石との交信実験が行われた。隕石には脳波のようなものが観測されたことから
それと同じ波長をこちらから送り、 意思の疎通、共振が出来ないかという実験。

結菱言葉は『隕石の言葉』を欲していた。 不死の秘密を解き明かす魔法の言葉を。
彼だけじゃない、彼の指示で実験に立ちあった研究者全てが隕石の不死性に惹かれていた。

だけど誰も予想だにしなかった。隕石もまた人間に惹かれていることを。
隕石の抱えている絶対の孤独、一万二千年の恋を。

実験は失敗。
隕石は触手のようなものを伸ばし周囲の人間を取り込もうとした。
実験に立ち会った九名の研究者のうち 八名の研究者が浸食を受けてその場で死亡。

一名だけしばらく昏睡状態が続いたもののやがて乾いた泥のようになって崩れていった。

その一名は意識が無いにもかかわらず指先から電流をスタンガンのように放ち
治療しようとする医師の指を焼き切ってしまったという。


206 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 14:33:47.99 ID:7XdX6izl0
両手が右手の婆で出てくる気がしてならない


208 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 15:00:43.84 ID:cgYQg15eO
これだけの大失態を演じながらも 結菱言葉の研究は止まることが無かった。

隕石は人間を求めている。

隕石は何千万、いやもしかしたら何億年もの時を生き、死ぬことが先ず無い。

一方、人間はすぐ死ぬ。
死の危険を感じ取るために人間は恐怖を発達させた。
種を維持するために愛情を発達させた。
隕石にはそれが無い。故にそれを求めている。

隕石の浸食を受けても即死しない人間がいた。
それは適性があったからではないのか。
ならば完全な適性を持つものが隕石と融合したらどうなるか。
不死の超人を自らの手で作り出すことが出来るのではないか。

結菱言葉はますます研究にのめりこんでいった。
適性因子の候補がある程度に絞り込まれた時、 言葉の狂気もさらに研ぎ澄まされていた。


209 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 15:08:12.96 ID:cgYQg15eO
適性因子を持った人間が必要だ。
受精卵に適性因子の候補を組み込んで作った人間が。

隕石の媒介として初めて産み出された人工少女。
その子は『高貴な者』を意味するアリスと名付けられた。

アリスは10人いたとも100人いたとも記録されている。
それぞれが異なる適応因子候補を持っていた。 あとは同じ遺伝子型のクローン。

当時の結菱言葉の発言が資料に残されていた。

『あの隕石は神が人に食べることを許さなかった生命の木の実だ。
そしてアリスはその実をもぎ取る 未來のイヴとなるべくして造られた』

太陽も青空も見えない地下室のエデンの園で
結菱言葉という無情な神に隷属する日々がアリスの日常であった。

一人、また一人とアリスは隕石との適合実験に失敗し減っていく。

(実は適性因子は一種類だけでは意味が無く
いくつかの組み合わせで初めて完全な適性が現れるのだが
それを結菱言葉が知るのはもう少し後のことである)


211 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 15:17:13.97 ID:cgYQg15eO
そして運命の日がやって来た。
最後に残った七名のアリスが結託して脱走未遂。
結菱言葉は脱走を図ったアリスを全て銃殺した。

その時、隕石が動いた。
それまでアリスとの実験では何の変化も起こさなかった隕石が。

また、当時の結菱言葉の発言が残されていた。

『死だ。隕石は死に惹かれていた。
隕石が求めていたのは人間の感情や意思だけではない。
死そのものをすら欲しがっていた。
決して死なず、宇宙の暗黒をひたすらに彷徨っていた隕石に
人間は、死は、まるで閃光のように眩しかったのだろう。
そして、その一瞬を光り輝くものが欲しいと考えた。
あの時、無数のアリスの死が起きていた。それが隕石を動かしたのだ』

隕石はアリスの死体を次から次へと取り込んでいった。
七つの遺体を取り込んだところで活動を停止。

隕石はそれまで増殖を繰り返し巨大化していたが収縮し直径1.5m程の球体となった。
そしてその周りには太陽系の惑星のように七つの小さな球体(コア)が生まれていた。

結菱言葉はその七つを武器(ARMS)と名付けた。


213 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 15:23:44.45 ID:cgYQg15eO
その後、隕石であった球体は空へと昇っていったという。
球体は今も空のどこかにあるはず。絶望と孤独に抱かれながら。
七つの子を地上に残して。

隕石は失ったが、七つのARMSを元に 結菱は相変わらず研究と実験を続けた。

彼はアリスに代わる新たな雛形として 自分のクローンに適性因子を組み込んでいった。

結菱シリーズ。
自分の分身なら扱いやすいと考えたのだろうか。
その過信の報いを受ける日はすぐにやってきた。

結菱シリーズ最初の移植成功例。結菱落葉と雪華綺晶。
落葉は移植後すぐにクーデターを起こした。
父である結菱言葉他ラプラスの首脳陣を殺害。そのままラプラスを乗っ取った。


214 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 15:32:45.79 ID:cgYQg15eO
「ここから先はあなた達も知ってるわよね」

「…はい」

巴ちゃんはうつむいたまま返事をした。 バックミラーからはその表情を読み取ることは出来ない。
一方、めぐめぐは車窓を眺めていた。

「どうして今、こんな話を?」

「言ったでしょ?話してないと眠くなるから。 それだけよ」

『でもその話が本当ならヒナ達は元からみんなアリスなの。
どうして、お互いを食べちゃえなんてプログラムがあるの?』

『食べるという行為は相手の死を自らの生にすることかしら。
隕石は、お父様はそれを望んでいたかもしれないのかしら』

「…でも、水銀燈達はそれを拒否できる力も持っていた」

「そのとおりよめぐめぐ。何故ならARMSは隕石のプログラムだけではなく
それぞれのアリスの遺志をも受け継いでいる」

山の端に豪奢な建物が見えてきた。
喋りながらも景色を眺めていためぐめぐが最初にそれに気づいた。

「あれは…」

「そう、あれが薔薇屋敷。もう後戻りは出来ない」


215 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 15:37:03.08 ID:cgYQg15eO
薔薇屋敷前に着くと強い共振が私達を出迎えた。
巴ちゃんとめぐめぐはやや取り乱す。

「この共振は…!! 雪華綺晶!? でも、複数感じる!?」

「残るARMSは落葉ただ一人のはず」

(予想はしていたが)恐れていた事態だ。

「…完成していたのね」

共振の主が薔薇屋敷の庭に一人、二人と姿を現した。
結菱ではない。皆見たことが無い顔の少年達だ。その数は十人を越えた。

「初めましてオリジナルARMSの諸君。 僕達は調整済(モデュレイテッド)ARMS!!
雪華綺晶のコアの欠片から培養、調整された最新型のARMSを移植されている」

「調整!?」

先ほどの昔話で触れておくべきだったと思いながら二人に簡単に説明する。

「既にあるARMSのコアを削り、それを培養し新たなARMSのコアとする。
そうして出来たのがモデュレイテッドARMS…」


217 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 15:40:41.01 ID:cgYQg15eO
削るという単語に巴ちゃんが信じられないといった様子で声を上げた。

「コアを削る!? そんなことをして…」

『勿論、ARMSといえども無事ではすまないかしら。
コアもちょっとした傷なら再生できるし、機能も保てる。
でも、削られる痛みにそう何度も心は耐えられない。
これだけの調整済を作り出すほど削られたとしたら雪華綺晶はもう…人間で言うなら廃人状態』

金糸雀のさらなる言葉に、今度は雛苺が声を失う。

『そんな…』


218 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 15:45:54.11 ID:cgYQg15eO
「ふん、しかし結菱さんや俺達にとってはその方が都合がいい!!
ARMSに意思などあったところで移植者の邪魔にしかならない」

少年達のARMSが起動した。水銀燈の翼、雛苺の槍、蒼星石の爪、翠星石の脚。
落葉の雪華綺晶と連動しているのだろう。落葉の力全てが彼らに伝わっている。
だが、どうやら真紅の透明シェルターまでは覚えられていないようだ。

「そして僕達モデュレイテッドがオリジナルの雪華綺晶よりも更に優れている点がこれだ。
目を閉じたり、歌や雨といった条件を気にせずに力を行使できる!!
そう、兵器(ARMS)としてなら我々こそが最強…」

大口を叩いていた少年兵の一人が光に呑まれ消えた。
光は衰えず、薔薇屋敷の上半分を消し飛ばす。
金糸雀のタンホイザー。当然、私が自分の意思で撃ったのだ。

「貴様!!」

「いつまでくっちゃべっているつもりよ。
ARMSがいくら強かろうが、それを使うのはあくまで人間。
あなた達は兵器としては強くても、人間として弱い!!」


219 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 15:49:15.49 ID:cgYQg15eO
「みっちゃんさん!?」

「めぐめぐ、巴ちゃん、ここは私に任せて。
世間知らずのお子様達に年季の違いって奴を見せてあげる。
さぁ狼煙はもう上がってる。あなた達は屋敷の地下へ、結菱落葉を!!」

『金糸雀独りで大丈夫なの?』

『心配ご無用かしら雛苺。こんな奴ら、カナとみっちゃんには試練の内にも入らないのかしら』


222 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 16:14:05.58 ID:cgYQg15eO
少女達の小さくなる背を見送る。

「随分すんなりと行かせてくれるのね。落葉の指図? それとも…」

「僕達を…弱いと言ったな!!」

「次世代の覇者として選ばれたこの俺達を!! 旧式風情が!!」

「完全に頭に血が上っているみたいね。
いいわ、何故あんた達が弱いのか、お姉さんがレクチャーしてあげる」

「減らず口を!!」

少年兵たちが槍や爪を振りかぶり、飛び掛かる。
大きな得物に頼った直線的な動きだ。横に動くだけでかわせた。
次に羽根ミサイルが降りかかる。
コントロールがなっちゃいない。共振で軌道が簡単にずらせる。

「さて、それじゃあ第二楽章、行くわよ金糸雀!!」

『なんだか、みっちゃん嬉しそうなのかしら』


223 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 16:19:52.18 ID:cgYQg15eO
嬉しい? そうかもしれない。今までずっと一人で戦ってきた。
抵抗組織ただ一人のARMS適性者。
その重圧に押し潰されそうになりながら生きてきた。
決して負けることが、倒れることが許されない戦いが続いた。

傷つき、逃げ出そうと思ったことが何度もあった。
その度に、多くの犠牲を払って私の身に移植された金糸雀を見る。

私に宿るのは金糸雀だけでは無い。
犠牲となった人の血と涙もまた私の中にあるのだと。
この身に宿る無念の魂が私を楽には死なせてくれない。

私がもっと強ければ、あの子達にARMSが移植されることも無かった。
今でも謝りたいと思っている。
柿崎めぐ、柏葉巴、桜田ジュン。
あの子達を血塗られた道に追い立てたのは私だ。

覚えていないでしょうけど
私はあなた達のおしめを取り替えさせてもらったこともある。
あの時は私もまだ少女だった。

赤ん坊。親が世話をしなければ死んでしまう。
ARMS適性者だろうとそれは変わらない。

ああ、何て愛しいのだろう人間は。
儚くて頼りなくて、他人がいなくては生きていけない。
今なら隕石が何故、人間に惹かれたのか分かる気がする。


225 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 16:25:44.73 ID:cgYQg15eO
「あの子達はもう自分の足で歩き始めた。
たとえ私がここで朽ち果てようとも、落葉を必ず倒してくれる。
そう信じられれば力なんていくらでもわいてくる。金糸雀!!」

『合点承知!! 今日のカナは疲れを知らないのかしら〜』

「タンホイザー起動!! もいっぱあああああつッ!!」

「うあああああ!!」

また二、三体の調整済が光の渦に呑まれて消えた。
そうだ、私は光だ。あの子達の道を照らす光になるんだ。
一瞬、けれども閃光のように。

「くそう!! 何故だ、何故あんな旧式一人捕らえることが出来ない」

「これ見よがしに力を使いすぎなのよ。
両手と足に本来別個のARMSを同時に発現させてるせいでバランスが悪いったらありゃしない。
あ、これレッスン1ね」

「ふざけるな!!」

少年兵の一人が蒼星石の腕を振りかぶった。
腕が伸びきったところを見計らい、手首のところを弓で切断する。

「馬鹿な!! ARMS中最硬の蒼星石が!!」


226 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 16:29:53.45 ID:cgYQg15eO
「何勘違いしてるの? 蒼星石が硬いのは爪先だけよ。 だから、そんなに大振りしちゃ駄目。
私は昔、結菱青葉とは戦ったことがあるけど彼は突きを主体とした戦闘スタイルだった。
自分の最も強いところを敵にぶつけると同時に、弱いところは常に相手からの死角に置いておく。
はい、これレッスン2」

「くそぉッ!! ならば翠星石の根で…!!」

「おい馬鹿!!やめろ、今は!!」

地面が盛り上がり、木の根が這い出てきた。 しかし木の根はお互いにこんがらがっている。

「俺が既にここ一帯の木の根を支配下にして罠を張っていたのに…!!なんてことを」

「ぐ…!!」

「あっちゃ〜。おまつりとは無様ね。最強が聞いてあきれる。
地の利は人の和に如かず。
いくら自分に有利な状況でも仲間との連携が悪ければ全てオジャンよ。
これでレッスン3ね」


227 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 16:35:01.86 ID:cgYQg15eO
「これが…年季の違いと言うのか!? ならば、ならば何故俺達はARMSになったのだ!?」

「そんなの自分で考えなさい!!」

『みっちゃん。カッコ良すぎるのかしら!!』

「あら、カナ。それじゃあカナのカッコいいところも見せて頂戴。
タンホイザー起動!! 照準モデュレイテッド!! てーーーっ!!」

光の塊でまた調整済が二、三体ほど消し飛ぶかに見えた。
しかし、光線は途中で『同じ光線』とぶつかり相殺した。

「あら…?」

「ふ、ふははははは!!いい気になっていられたのもこれまでだ。僕からもレッスンを授けてやる!!
モデュレイテッド(雪華綺晶)に同じ技を何度も見せるのは禁物!!」

「そうだ!!俺たちの本当の狙いは金糸雀のタンホイザーよ!! 最強の火力のARMS!! 
これさえ手に入れば蒼星石や雛苺など、つまらない能力など要らぬわ!!」

見回すと全てのモデュレイテッドがバイオリンを構え タンホイザーを開口していた。



228 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 16:41:57.48 ID:cgYQg15eO
「散々馬鹿にしてくれたな!!その報い!!受けてもらうぞ!!」

少年兵の一人が粒子砲の照準を私に合わせ、発射した。

が、砲は暴発した。
彼は周りの少年兵を巻き込み閃光の中に消えていった。

「暴発だと!?ありえん!! ARMSに暴発など…!!」

「気付かなかった? 今さっき私がちょちょっと詰め物したからそのせいよ。ほら、あなたの発射口にも」

「詰め物!? そこらの石ごときで暴発させられるとは… いや、これは!!」


229 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 16:43:16.49 ID:cgYQg15eO
「そう、さっきあなた達の誰かから切り飛ばした蒼星石から さらに爪だけを折り取って発射口に打ち込んだ。
言ったでしょ?これ見よがしに力を向けないで、と。
銃口を晒すのは撃つ時だけ。そうじゃなきゃ、詰めて下さいと言ってるようなもの…
どうかしら? 要らない子宣言したARMSに手を噛まれるってのは!?」

「おのれおのれおのれー!!」

「レッスン4 敬意を払え。 ARMSは誰もつまらなくなんか無い!!
つまる、つまらないってのは私達、人間の使い方次第。
最強のARMSだと自惚れるくせに 一つ一つのARMSには思いをめぐらす事もしない。
だからあなた達は弱いのよ!!」


231 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 16:53:49.67 ID:Xq6Y40Bt0
やはりみっちゃんかっこいい。


232 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 16:59:47.61 ID:cgYQg15eO
PHASE7:リバース


長い長い地下通路。
パイプやチューブの類がむき出しで、まるで生物の体内のようだ。
私、柿崎めぐは柏葉さんと共に結菱落葉がいるであろう最下層に向けて走っていた。

水銀燈はまだ自分の声には応えない。
このまま行っていいのだろうか。足手まといになるのではないだろうか。

さっきから走り続けているが結菱を追い詰めているのだろうか
それとも、もしかして自分はいつの間にか逃げ出しているのではないか?
分からなくなり始めていた。

そんな私の胸中を見抜いたのだろうか。 柏葉さんはこう言ってくれた。

「敵は前にいる」

そうだ。自分達は進んでいるんだ。間違いなく前に。

その時、前方から閃光が放たれた。 光は私達をかすめ、衝撃が地下を揺らす。
嗅ぎ覚えのあるオゾン臭に柏葉さんが顔をしかめた。

「今のは…タンホイザー」


233 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 17:04:57.08 ID:cgYQg15eO
「祝砲だよ。ようこそアリス、ラプラス(兎の穴)へ!!」

結菱落葉の声だ。 光と、声がした方向に向かうと広間に出た。
中央には結菱落葉がただ一人立ち、バイオリン(金糸雀)を弾いている。

結菱落葉は目を閉じたまま、音楽を弾きながら語りかけてきた。

「モデュレイテッドは全て草笛みつの前に倒れたようだが、所詮は名無しの兵隊。
こうなることは分かっていた。金糸雀を覚えてくれただけでも良しと思わねばな」

ただ、彼が今弾いているのはタンホイザーではない。
しかし私の知っている曲であった。

「トロイメライ…」

「そう…夢(トロイメライ)だ、柿崎めぐ。まもなく私の夢がかなう」

「究極のARMS『アリス』なんて、それこそ只の夢想よ。
アリスは…アリスは普通の人間だった。
隕石が惹かれたのも誰もが持つ人間らしさだったはず。
どうしてあなたにはそれが分からないのよ、結菱落葉」


234 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 17:09:20.64 ID:cgYQg15eO
結菱落葉は曲を止め、目を開いた。

「私は落葉ではない」

「!?」

「落葉は私の中で雪華綺晶と一緒に泣いているよ。
可哀想な落葉。父殺しの落葉。泣き虫落葉。
…アリスや隕石の話を聞いているのなら、 私のことも既に知っているはずだ」

私達は車内でみっちゃんさんに聞かされた話を思い出した。
柏葉さんがそこから導かれる答えを口にする。

「まさか…結菱言葉?」

「そうだ。落葉はミスを犯していた。決定的なミスを。
私を殺す時に、彼は初めて雪華綺晶を覚醒させた。
雪華綺晶が初めて見たのは、この私の死に顔なのだよ。
覚醒したてで能力が暴走していたのだろう。 私は落葉の中にコピーされていた。
以来、彼が眠るたびに少しずつ私の意思が彼を蝕んでいった。
日食で太陽が月に隠されるように。
雪華綺晶の特性上、落葉が目を開けている間、私は出てこられない。
だが…眠る時は瞳を閉じざるを得んからな」


235 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 17:13:35.47 ID:cgYQg15eO
言葉は私達の顔色をうかがいながら更に話を進める。

「かつて落葉は、アリスになる方法はアリスゲームだけではない。
と言ったことがある。その意味が分かるか? 柏葉巴?」

「それは…ARMSは皆アリスと隕石から生まれた。
柿崎さんの水銀燈ちゃんも私の雛苺も既にアリス…」

「惜しいな。確かにARMSは全てアリスだ。だが卵だ。
アリスの卵。そして媒介はそれを育てる役割を担う」

卵という意外な例えに私は少し驚いた。

「卵を育てる?」

「媒介に移植され、覚醒する。これは孵化だな。
しかしまだヒヨコだ。お父様の元へは飛び立てない。
次に必要となるのは成長と巣立ち。
だがな、残念なことに珪素生物は成長が遅い。
寿命が数千万年とも億とも知れんのだ。当然といえば当然だ」

卵、成長、巣立ち……… 言葉の言わんとしていることが分かってきた。
私の頭の中で残酷な想像がヘビのようにとぐろを巻き始める。


237 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 17:15:47.14 ID:cgYQg15eO
「ARMSは媒介から人の心を貰って成長する。それは隕石が求めてもいたものだからな。
しかし、それは精神的な成長。物理的な、肉体的な成長も必要だ」

ここで柏葉さんが声を張り上げた。

「さっきから何が言いたいの!?」

「いや、もしかしたら君達は
隕石は、お父様は娘を産んだまま、ただ置き去りにしたと勘違いしているのではと思ってね。
その誤解を今から解いてあげようというのだ。お父様は優しい。
娘が何も無いところで孵化しても、ちゃんと成長できるようプレゼントを付けてくれている。
珪素生物としてこれ以上無い、栄養価の高い餌を!!」

今度は柏葉さんではなく私が、悲鳴に近い声を上げた。

「…やめて!! それ以上…言わないで!!」

「七体のARMS!! そのうち一体だけが無事に成長できればそれでいい。
他は餌だ。それがアリスゲームの真実!!」


238 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 17:21:05.80 ID:cgYQg15eO
突如として震えが私の体を襲う。止まらない。
傍らで柏葉さんがまた声を張り上げる。

「嘘よ!! そんなこと…」

「酷い、と隕石を罵るか? だがあれは人間ですらない。
およそ人間らしい感情などあるはずも無い。だからこそ人間に惹かれていたのだがな」

廻る、世界が廻る。
違う、私の視界がぐるぐると廻っているのだ。
足から力が抜けていく、へたり込むとそのまま意識が遠のいた。

「柿崎さん!?」

「…水銀燈の世界に意識を引きずり込まれたな」

「水銀燈の世界?」

「水銀燈は既にアリスとして巣立つに十分な成長をしている。
青葉との戦いで一度完全に解放され、
さらにその後 二体のARMSのコアを食い、六枚の翼まで得るに至った。
そして今の私の話を聞いて柿崎めぐは水銀燈にいたく同情した。
同情とは読んで字のごとく、同じ情を持つこと。柿崎めぐも…水銀燈とともにアリスとなる」


239 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 17:25:36.60 ID:cgYQg15eO
真っ白な世界。真っ白な部屋。
一人の少女がうずくまって泣いている。
この子は見たことがある。
いつも真紅ちゃんがとっていた少女の姿。

だけど彼女は真紅ちゃんじゃない。そう直感で分かった。

「水銀燈?」

そう呼びかけた途端。泣いていた少女は粉雪のように散った。

「どこへ…!?」

辺りを見回すとさっきの少女がいた。ただし、今度は六人。
そのうちの一人が私に話しかけてきた。

「さぁ、逃げるのよ。早くしないと見つかるのだわ」

「逃げる? どこへ?」

「外に決まってるのかしら。この中じゃあなたが
一番早く生まれたんだからしっかりして欲しいのかしら」

「私が?」

「どうしたんだい? 気分でも悪いのかい」

「?」


240 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 17:30:56.13 ID:cgYQg15eO
頭の中に声が響いた。

『私達は脱走を企てた』

「この声? 水銀燈!? どこ?」

『あなたは今、過去を追体験している。
私がARMSになる前の記憶。私も初めて思い出す記憶』

「それじゃあ私は…?」

『今のあなたはA-31という番号で呼ばれていた存在。
最後まで生き残ったアリス達の中では一番の長姉。
私達は隕石にとり殺されるのを恐れて逃げ出した』

六人の内の一人が私の袖を引く。

「お姉さま…早くしないと」

「そ、そうね。ちょっとボーっとしちゃって…」

「らしくないのだわ。いつもの口癖はどうしたの?」

「口癖?」

『私達は皆同じ顔、同じ声。
だから喋り方に特徴をつけてお互いに個性を持つことにしていた。
「かしら」や「です」など語尾を変えたり 一人称を僕にして男っぽい喋り方にしたり
あとは逆に無口になることで他のアリスとの区別を図ったり…』


241 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 17:35:42.03 ID:cgYQg15eO
「ああ、口癖ねぇ。思い出したわぁ。それじゃ行きましょ」

私(A-31)を加えて七人となった少女達は暗い地下通路を歩き続けていく。

「疲れたのよ〜。出口はまだなの〜?」

「きっともうすぐ外ですよ!! もうひと頑張りです!!」

「さっきからそればかりなの」

「えぇい、文句ばっかり言ってるから疲れるんです。
ちったあ楽しいことを考えて気を紛らわせるです」

「楽しいこと?」

「なら、外に出れた時のことを考えましょうよぉ。 青い空、白い雲、真っ赤な太陽」

「ああ、見たいな。写真でしか知らない。きっと綺麗なんだろうね」

「そうね。それと外に出られたなら、みんな番号じゃあ不便なのだわ。
口癖だけじゃなく名前も考えなくては」

「名前…交換…」

「そうなのかしら!! みんなでみんなの名前を考えるのかしら」


243 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 17:40:51.38 ID:cgYQg15eO
『私達はお互いに名前を考えて交換することにした』

「えっとぉ、あなたの名前は…金糸雀なんてどう?」

「ちょっと、それあなたが好きな『歌う鳥』の名前じゃないのかしら。
でも、気に入ったのかしら。私は今から金糸雀…」

「よし、金糸雀。今度は私に名前をつけるです」

「翠星石…なんてどうかしら?」

「翠星石…翠星石ですか。いい感じです」

「それじゃ翠星石。次は僕の名前だ」

「蒼星石!! 蒼星石です!!  あなたとは同じβグループの
人工子宮出身ですから名前もお揃いにするです」

「ありがとう翠星石、僕は蒼星石だ」

「なら今度は私の名前を考えて頂戴。蒼星石」

「真紅…なんてどうかな?」

「相応しいのだわ」

「じゃあ真紅。次、次〜」

「あわてないで頂戴。もう考えてあるわ。雛苺。あなたの名前は雛苺」


244 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 17:47:50.77 ID:cgYQg15eO
「雛苺。可愛い名前なの〜」

「…では、私は…?」

「んーとね、雪華綺晶。あなたは雪華綺晶なの」
「雪華綺晶…私は…私が雪華綺晶」

「それじゃぁ最後は私の番よ、雪華綺晶。私の名前を」

「…水銀燈。お姉さまは水銀燈」

「水銀燈。私が水銀燈なのね… 嬉しい」

再び頭の中に声が響く。

『外の世界に対する期待と それぞれの名前を得た喜びに満ちたこの一瞬は
最高に幸せだった。特に名前は重要だった。
ARMSになった後でも、まず媒介に自分の名前を教えることが必要なのもこの名残』


247 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 18:17:59.07 ID:cgYQg15eO
パンッ…と乾いた音が響いた。

雪華綺晶がうめき声ひとつ立てずに倒れた。
真っ赤な血が床を染めていく。

「え…?」

『私達の逃走劇はここで幕引き。大人達に追いつかれ、みんな射殺された』

銃声は続く、悲鳴とともに少女達は倒れていった。私も。

『そしてここからARMSの歴史の幕があけた』


246 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 18:16:05.13 ID:cgYQg15eO
「あああああああああああ!!」

「柿崎さん!? 柿崎さん!?」

「来たな、君にも、私にももう誰にも止められない。巣立ちだ!! アリスの羽化だ!!」

私の体の中を共振が駆け巡る。
骨がばらばらになりそうだ。背を突き破り水銀燈の六枚の翼が現れた。
しかし…

「そんな…翼が!! 柿崎さんの銀色だった翼が!!」

「六枚の黒い翼。まさに黒い天使か!!」

体中にARMSが広がり、黒くひしゃげた装甲で覆われていく。
心まで黒く染められそうだ。 これは誰の意思? 水銀燈? それとも…

「おぎゃああああああああ!!」

黒い天使が雄叫びを上げる。獣のように、赤子のように。

「産まれた!! 究極のARMSアリスが。
さぁ、アリス!! お父様を呼べ。空からあの隕石を呼び戻せ!!」

「呼び戻せ!? 結菱言葉、あなたの目的は…」

「そうとも柏葉巴。私の最終目的はあくまであの隕石。
あれを取り戻してこそ、私の人生は再開する!!」


248 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 18:21:34.60 ID:cgYQg15eO
「おおおおおおぎゃっぎゃっぎゃぎゃぎゃ!!」

息をするだけで勝手に叫び声が上がる。逆だ、叫び声を上げないと息をすることさえ出来ない。
ひどい声だ。これじゃあもう水銀燈に歌ってあげることも出来ない。意識がまた…遠のいていく。

「柿崎さん!! 水銀燈ちゃん!! しっかりして」

「無駄だ。もはや彼女は柿崎めぐでも水銀燈でもない。
黒いアリスだ。これは忠告だが、逃げたまえ。私は隕石さえ手に入ればそれでいい。
あんまり彼女の前をちょろちょろしていると…喰われるぞ」


249 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 18:26:30.58 ID:cgYQg15eO
「雛苺!!」

『うぃ!!』

「ARMSを出してどうするつもりだ? アリスには雛苺の槍はキャンディーにしか見えてない」

「あなたは黙ってて!! 私がきっと柿崎さんを元に…!!」

柏葉さんは槍を構えると黒いアリスに突きかかった。

「好きにするがいい。私は何の手出しもせん。だが見物はさせてもらおうか」

水銀燈は六枚の翼で柏葉さんを包み込むように襲い掛かる。
もう止められない。止まらない。 私の声は外には届かない。

柏葉さんはスウェーバックして回避。
翼の死角を移動しながら、関節を狙い連続突きを繰り出す。

退屈そうに言葉はそれを眺めていた。

(そんな攻撃では足止めにもならん…徒労だな)


252 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 18:31:08.60 ID:cgYQg15eO
私はまるで夢でも見ているかのように柏葉さんとの攻防を眺めていた。
柏葉さんに『逃げて』とか『私を止めて』と伝えるすべもない。
しかし黒いアリスと化した私の左腕は本能的に獲物に反応する。
雛苺の槍を掴みとったのだ。力は圧倒的に黒いアリスが勝っている。

「くっ…!?」

柏葉さんの顔は一瞬ゆがんだが、すぐに微笑に変わった。

「柿崎さん…雛苺を離さないでね」

なんと雛苺を手放した。槍は竹刀へと戻る。これには結菱言葉も驚いた。

「馬鹿な!? ARMSを手放した? 僅かな勝ち目すら捨てる気か!!」

「雛苺!! 柿崎さんに移植して!!」

『まかせてなの!!』

竹刀が再び槍へと変わる。槍を掴んだ水銀燈の左腕から侵食が始まる。

「雛苺は、移植後も体外に出られるARMS…
そしてARMSは一人に二つ以上移植されるとお互いに抑制する!!
お母様が教えてくれた」

左腕から突如として激痛が走る。 だがこれは私自身に感覚が戻ってきている証拠。
水銀燈を…自分のコントロールを取り戻すチャンス
夢から醒めるなら今。この手を絶対に離してはいけない。


253 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 18:36:39.05 ID:cgYQg15eO
「考えたな!! ARMSの多重移植による抑制作用か。
だが黒いアリスは三体分のARMSのパワーだ。 雛苺だけで抑えきれるかな!?」

言葉は素直に賞賛を送った。

その時、私の背中の翼の間に何かが突き刺さった。
何かは見えない。だがそれが何なのかすぐに分かった。
背中からも雛苺と同じ力を感じる。これは

『雛苺!! 助太刀に来たかしら!!  そして水銀燈!! 
やっと会えたと思ったら真っ黒じゃないのかしら!?』
「頑張って…金糸雀!! そしてめぐめぐ!!」

金糸雀ちゃんだ。みっちゃんさんが金糸雀ちゃんを私の背中に投げ刺し移植させたのだ。

「みっちゃんさん!!」

喜色の柏葉さん、そして難色の言葉。

「ちぃっ もう来たのか」


254 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 18:42:01.38 ID:cgYQg15eO
背中と腕の痛みが正気を保たせる。もう少し、あと少しで…

「何故だ…何故、雛苺を黒いアリスは手離さない!?」

言葉が意外そうに水銀燈に話しかける。

「それは…柿崎さんも黒いアリスの中で戦っているから。
水銀燈ちゃんを取り戻そうと彼女も今必死で戦っている!!」

「中? 黒いアリスの中に柿崎めぐの意思がまだあるだと!?
柏葉巴、馬鹿なことを…中に誰もいやせんよ」

一瞬。気を抜いたわけではなかった。それでも一瞬。
私のコントロールを離れ黒いアリスの左手が動いた。
アリスは柏葉さんの胴体を貫いた。雛苺の槍で。
侵食による激痛よりも不快な感触が腕をつたう。

『トモエ!! いやああああ!! トモエええぇぇ!!』

雛苺ちゃんの叫喚。
しかし、その悲鳴の中でも柏葉さんの振り絞った声が私の耳に届いた。

「駄目よ…柿崎さん。負けちゃ…駄目」

『トモエ!! 今、ヒナが』

「いけ…ない。今、私に再移植したら柿崎さんを抑える力が…足りなく…」

『だって、だって巴は今ARMSじゃないのよ。 普通の人間なのよ。し、死んじゃうのよ!?』


256 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 18:46:23.41 ID:cgYQg15eO
みっちゃんさんは見ていることしか出来ない自分と運命を呪う。

「どうして…どうしてよ。巴ちゃんの声は届いているはず。
めぐめぐも戦っている。雛苺ちゃんも金糸雀も… 何が…何が足りないっていうの!!」

絶叫がこだまする。 それっきりだ。それっきり静寂があたりを支配した。
結菱言葉は遠巻きに微笑んでいる。

柏葉さんは槍に貫かれたままもう喋らない、動かない。
雛苺ちゃんの声も金糸雀ちゃんの声も聞こえない。

助けて……誰か…助けて。
当てもなく救いを求めるしかできない自分の惨めさに打ちひしがれている、その時、声がした。
懐かしい、それでいて力強い声が。

『力が欲しい?』


257 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 18:51:19.19 ID:Xq6Y40Bt0
戻って来たか!?


260 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 19:04:14.74 ID:cgYQg15eO
PHASE8:最後のチカラ


深い深い兎の穴。私、柏葉巴は息絶えようとしていた。
柿崎さんの感情、そして翠星石と蒼星石のコアを食べて
成長した水銀燈ちゃんが進化した黒い天使。
媒介の意思は閉じ込められ、ただ隕石を、空にあるお父様を求める黒いアリス。
その黒いアリスを柿崎さんに戻すため死力を尽くしたがそれも及ばなかった。
雛苺の槍で胴を貫かれ、死を迎えるだけの私はある声を聞く。

『力が欲しい?』

「この声…は?」

『力が欲しいのなら』

結菱言葉も異変に気付きうろたえた。

「この共振…!? まさか、やつは死んだはず!!」

『撒きなさい』

流血が宙へと巻き上がっていく。これは…この現象は…

「真紅…ちゃん?」


262 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 19:10:14.52 ID:cgYQg15eO
途端に貫かれた胴から血が勢いよく噴出し、その勢いで私の体は槍から抜け落ちた。
あわてて傷を抑える。傷口は塞がっていた。

「桜田君!? 桜田君なのね!! 桜田君が来てくれた」

『いえ…違うわ、巴』

私は真紅ちゃんの声がどこから響いているか気がついた。 自分の中だ。

『これは…運命だわ。 神様が許してくれた運命だと私は受け取った。  
私の一部は 巴、あなたの中で奇跡的に生き延びることが出来た。  
一部だけだったから私からの抑制は弱く、今までは雛苺に一方的に抑制されていた。  
でも巴の、雛苺を敢えて手放すという勇気ある決断が私の増殖を促し、
再び戦いの場に呼び戻してくれた』

「どういうこと? 分から…ない、真紅ちゃん。 ねぇ、桜田君も近くにいるんでしょ!?  
私の中に真紅ちゃんがいた!? そんなのいつから…」

『ジュンから血を貰ったでしょ… あの時』

「あの時? …ッ!!」

ハジメテノキスハ ツメタイテツノアジガシタ。


263 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 19:11:29.10 ID:7XdX6izl0
そんな伏線だったとは


264 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 19:13:49.87 ID:Xq6Y40Bt0
この伏線はやられた。


265 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 19:15:18.63 ID:cgYQg15eO
涙が溢れてきた。 吹っ切ったはずなのに。分かっていたはずなのに。
死んだ人は決して生き返らない。 なのに、なのにそれを少しでも期待していた自分がいた。
それが悲しくて恥ずかしくて涙が止まらない。

一方、結菱言葉も、これは単なる偶然ではなく、人間とARMSの意思が紡いだものであることを
起こるべくして起きた奇跡、運命であることを認めた。

「原理はモデュレイテッドどもと同じか。真紅の一部が柏葉巴の中で培養された。
記憶まで複製されているとは驚いたな。
だが、今更お前が増えたところで黒いアリスは止められん」

科学者らしくと言うべきかイレギュラーと思われる現状をも予測できたと言わんばかりに分析し
それでもなお自分の計画の優位を信じて揺るがない。

一呼吸おいて、真紅ちゃんのテレパス。

『巴。これから私のすることを見ても…私を嫌いにならないで頂戴ね』

「え?」

黒い天使の前で、薔薇の花が咲くかのように周囲から血が集まり形を成していく。
真紅ちゃんがいつもの少女の姿をとるつもりなのかと思ったがそれにしては頭身が高い。
あの姿形は…

「桜田君の格好? 何をするつもりなの?」


266 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 19:20:46.15 ID:cgYQg15eO
真紅ちゃんは何もしなかった。 ただ桜田君の姿になって黒い天使と向き合っただけ。
だが、それだけでアリスは苦しみ始めた。

「ウググ…アァ…」

その暗鬱たる呻き声を掻き消すかのように、桜田君の、真紅ちゃんの声が凛と響いた。

『…化け物』

私はその発言を耳では聞こえていても頭で理解することが出来なかった。
それほどに無思慮で無慈悲な言葉であった。

「アアアアアアアアアアアアッ!!」

天使の咆哮。いや今までのような雄叫びではない。
怒り、悲しみ、そして恥じらいの感情がそのまま音となったような泣き声。

「イヤ…!! イヤ…!! イヤアアアアッ!!!」

黒いアリスは自分の翼を一枚つかむと、力任せに引きちぎった。

「柿崎さん!?」

「アリス!?」

私も結菱言葉も呆気に取られる。
苦悶の悲鳴を上げながら、天使は次々と自分の翼を引き抜いていった。

「アアア……ッナ…イデ!!」


267 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 19:28:06.48 ID:cgYQg15eO
みっちゃんさんにも何が起きているのか分からない。

「なんなの!? 自分の翼を引き抜いたりして。
金糸雀と雛苺ちゃんの抑制が効いているわけじゃあない。  
抑制が効いているのなら、あんな自分を傷つける真似は…」
傷だらけの天使の泣き声が聞こえてくる。
黒いアリスの眼前に立つ真紅ちゃんと感覚を共有しているからだろうか。
消え入りそうなかすれ声ではあったが、決して聞き間違いなどではなかった。

「ミナイデ… ミナイデ…」

「見ないで?」

『見られたくなかったのよ、ジュンにだけは。めぐも、水銀燈も。  
綺麗だと褒めてくれた翼が真っ黒になってしまっているのを。  
理性も何も無い、化け物に堕ちてしまった自分を』

「じゃあ、真紅ちゃんはこうなることを見越して…」

それは人の心につけ込んだ、あまりにもずるくて卑怯な作戦。
しかし、黒いアリスに柿崎さんと水銀燈ちゃんの心が残っていなければ成功しなかった。


268 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 19:34:52.89 ID:cgYQg15eO
「馬鹿な…」

結菱言葉はまだ呆然としている。

「ガフゥッ」

全ての翼を自ら引き抜いた黒いアリスは 雛苺の槍で自分の胸を突き刺した。

「次はコア(心臓)をえぐり出すつもり!? 雛苺、もういいわ!! 戻って」

『は…はいなの!!』

槍は竹刀へと戻り、私の手元に戻った。しかし右腕には沈まない。
みっちゃんさんとの模擬戦のときとは違い、雛苺を離してから随分と経っている。
今、私の中には再生し増殖した真紅ちゃんで満ちているから
雛苺の再移植をすると真紅ちゃんも雛苺も力が抑制されてしまう。

『トモエ…』

「大丈夫よ雛苺。もう二度とこの手を離さない」

「カナも戻って!! この状態でARMSの再生力まで抑制するのはまずい!!」

みっちゃんさんは金糸雀ちゃんを自分に再移植した。

アリスは地面に伏し、びくびくと痙攣している。

「ゴメンナ…サイ…… ゴメン…ナサ……イ」

誰に何を謝っているのだろうか。地に堕ちた黒い天使は只ひたすらに赦しを乞い続けていた。


269 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 19:39:45.38 ID:cgYQg15eO
依然として真紅ちゃんは桜田君の姿のまま黒いアリスの前に立っている。

『巴…私が消えたらすぐに雛苺を再移植するのよ』

「真紅ちゃん…!?」

『5th ARMS真紅はあの時コアごと爆発して桜田ジュンと一緒に死んでいる。  
私は真紅の死に損ない。増殖は一時的なもの。  
今まで雛苺に死も抑制されていたけどそれももう終わり。  
力も…ジュンの姿を保つだけで精一杯なのよ』

「そんな!!」

『ジュンの最後の血から私は生まれ、あなたの血から最後の力を貰った。  
言ったでしょ、これは運命。あなたは私の命をこの時まで運んできてくれた』

「でも…!!」

「…ナイデ」

私の言葉をさえぎるように黒いアリスが立ち上がった。
ARMSの再生力が戻ってきているのか胸の傷は塞がりつつあった。
しかし翼は千切れたままだ。

「イカナイデ… シンク…」

傷だらけの天使の願いが聞こえた。先ほどまでの泣き声よりも更にはっきりと。

「取り戻してる… 柿崎さんが意識を。水銀燈ちゃんに戻りかけている!!」

桜田君が困ったような笑顔を浮かべる。
実際は真紅ちゃんが桜田君の姿でそうしているのだが模倣ではない。そのものである。

そうだ。彼は困った時があると、いつも先ず苦笑いをしていた。
どうして今頃になって彼のことがこんなにも鮮明に思い出されるのだろう。

『…駄目よ水銀燈。私は走ることを止めた過去の存在。  
今を生きるあなたは… まだ止まっちゃ駄目』


271 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 19:45:52.10 ID:cgYQg15eO
それまで桜田君の形をとっていた姿が いつもの少女の姿に戻った。
だが、残像のように桜田君の姿は立ち続けている。

翼の折れた黒い天使の前に桜田君と真紅ちゃんが並んでいる。そう見えた。
真紅ちゃんは桜田君の残像に微笑みかけ、桜田君は真紅ちゃんの手をひく。

『あら、ジュン。迎えに来てくれたのね』

黒いアリスのひしゃげた装甲が剥げ落ちた。その下にはいつもある柿崎さんの姿。そして声。

「どうして…どうして私達は」

『あなた達を置き去りにしてまで走り続けなければならないの』

『…見てめぐ、水銀燈。これが私の魂。人工的な人間として生まれ、殺され、
ARMSとして生まれ変わり  そして今また新たな死を迎えようとしている。
でも、それはやっぱり私が生きていたから。大切な者のために命をかけることが出来たから。
お父様が人間に求めたものの正体もきっとこれ』



272 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 19:50:31.72 ID:cgYQg15eO
真紅ちゃんと桜田君の像がだんだんと薄れていく。

『それに人が一生のうちに走れる距離はそう長くない…  
いつか、あなた達が立ち止まって休むことが許された時、振り返って御覧なさい。  
すぐ後ろに、今と同じように私達が並んで立っているはずよ。  
だから淋しくなんてない。ほんのちょっとの間のお別れ』

「本当に…本当にまたすぐ会えるのよね?」

柿崎さんの問いに、桜田君が頷いたように見えた。

『忘れないわよ真紅。今の言葉』

水銀燈ちゃんの誓いに、真紅ちゃんが微笑んだように見えた。

『それじゃジュン。エスコートして頂戴。 
向こうへ着いたら、あなたが飲みたがっていた紅茶を淹れてあげる』


273 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 19:52:59.68 ID:n6sG5ljq0
ジュン…


274 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 19:56:03.61 ID:7XdX6izl0
キュン…


275 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 19:57:37.63 ID:cgYQg15eO
PHASE9:Sinfonie Nr.9 d-Moll op.125


歌が始まった。歓喜の歌が。
歌い出し。柿崎めぐ。

「♪喜びよ 美しい神の火花よ 天つ乙女よ」

続いて水銀燈。

『♪我等は火に酔い あなたの聖堂に進む』

結菱言葉が苦しんでいる。

「やめろ…その歌をやめろ。目が、頭が…割れる」

黒いアリスが自ら引き抜いた翼から羽毛が舞い上がり、蒼星石の声が響く。

『♪あなたの力は時流が裂いたものをも結び』

翠星石の声も響く。

『♪あなたの休まるところで全ての人は兄弟となる』



276 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 20:04:27.15 ID:cgYQg15eO
草笛みつが加わる。

「♪世にひとつでも人の心を自分のものとしたものは共に歌え」

金糸雀も。

『♪たとえ魂しか自分のものと呼べないとしても』

過去の記憶にすぎない結菱言葉がうずくまる。

「この歌を…やめろと言っているッ!!」

結菱の歌声も重なりはじめた。が、言葉のではない。
彼の瞳、雪華綺晶から彼の頭の中にも直接響く声。
先ずは青葉。

『♪それがどうしてもできない者は涙と共に去れ』

次に若葉。

『♪全ては自然の恵から喜びを飲み』

そして落葉。

『♪全ては薔薇の轍を追い求めてゆく』



277 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 20:07:52.94 ID:E24YtWBH0
ARMS大好きだ


278 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 20:08:23.14 ID:cgYQg15eO
柏葉巴が歌う。

「♪口づけと血と死の試練を受けた友を得た」

雛苺も元気よく。

『♪弱者に快楽は与えられ 天使は神の前に立つ』

言葉の体が崩れだした。

「何故だ? どうしてたかが歌…で…」

歌はきっかけに過ぎない。
かつて受けた真紅の自爆がモデュレイテッドを作りすぎて疲弊していた雪華綺晶のコアに
致命的な傷を負わせていた。結菱言葉は既に桜田ジュンによって倒されていたのだ。

再びめぐと水銀燈の歌。

「♪太陽がまた輝くように兄弟達よ自らの道を進め」

『♪喜びに満ちた英雄のように勝利を目指せ』

結菱言葉から眼球が、雪華綺晶が転がり落ちた。
光を失った言葉の耳に届くのは、彼がかつて奪い去った雪華綺晶の声と心。

『♪抱き合おう諸人よ この口づけを世界に』



280 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 20:15:56.43 ID:cgYQg15eO
以下、合唱。

『♪兄弟よ 星の光の向こうに愛する父がいるに違いない
諸人よ ひれふすか 世界よ ふるえるか
星空の彼方に父を求めよ 星空の彼方に父はいる』


282 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 20:30:31.74 ID:cgYQg15eO
EXTRA PHASE:NEON DIE ARMS



結菱言葉は灰となった。最後まで、隕石の名前を呼び続けていた。

やがて冬が来た。
空気の澄んだある日を選んで柿崎さんは空へ隕石を探しに行った。

結果、何も見つからなかった。
もう一度探してみたらと言ったが彼女も水銀燈ももういいと答えた。

会いたいなら向こうから来やがれ。
そう笑っていた。

みっちゃんさんは結婚した。
子供は七人産むと豪語していた。

春が来た。
吸血桜はもう真紅の花をつけていない。

でも、私は桜田君を忘れない。桜田ジュンを忘れない。




END


283 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 20:32:05.67 ID:n6sG5ljq0
泣いた


284 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 20:32:31.46 ID:zmC4mcEJO
乙!


285 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 20:32:50.31 ID:Xq6Y40Bt0
お疲れ様でした。
堪能させていただきました。


286 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 20:33:17.69 ID:oZs8BSZI0
乙


287 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 20:34:17.39 ID:z/JU6usJO
お疲れ様でした!



288 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 20:36:07.25 ID:ybKrqcb00
乙!
よかったぜ!


289 :◆zgCcCa0QQs:2008/02/17(日) 20:36:31.88 ID:cgYQg15eO

           ___       
     ____,./      \     駄文、長文の相手をしてもらい
    ノ   /         \    お疲れ様でした。
  /   /            \  それと、本当なんかもういろいろとゴメン
 |     |::..           ...::::|  支援や応援ありがとう
 ヽ    `一ー――――-、;;;;::/`一ー―-、
  ヽ____(⌒)(⌒)⌒) )  (⌒_(⌒)⌒)⌒))


あと、めちゃくちゃ沢山の漫画、アニメ、歌詞を
パク…オマージュしてます。
ついでに第九の歌詞はこの物語用に
かなりいじってるけど怒らないでね。




290 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 20:39:37.75 ID:xzNlfTKlO
乙


292 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 20:42:44.55 ID:oCUh/ucXO
お疲れ様でした。


294 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 20:45:31.37 ID:W6GolF4y0
お疲れ様です。楽しませてもらった


295 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 20:49:38.51 ID:7XdX6izl0
乙
テンポ良いし面白かった


297 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 20:53:35.33 ID:gJrHkmLm0
一気に読んでしまった。
乙でした。


298 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 20:55:15.71 ID:OqyGLOULO
ローゼンメイデン好きな俺にとって最高だった


302 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 21:50:55.84 ID:nPkEAsKuO
読み終わった……
乙!!
ARMSもローゼンも大好きなオレにはたまらんかったw


303 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 21:52:27.01 ID:gmEEfvgP0
アリスつながりということに途中まで普通に気付かんかったw




2008/02/23(土) 17:38:17 / コメント(14) / トラックバック(0) / カテゴリー2
ユーザータグ / サンデー / ローゼンメイデン / クロスオーバー
« 時 死亡 女に不自由  |  お前らの息子を誘拐した »

コメント

※13231 :grun:2008/02/23(土) 20:13:18

ハーメルン成分の多さに感動した!!



※13256 :-:2008/02/23(土) 22:56:13

きゃんり人さんっっ!!
phece7二度貼ってるっ!!!!

でも、転載マジGJ!!!!
涙腺スティンギーアイじゃぁぁぁぁぁッッ!!!



※13267 :蒸発した名無し:2008/02/24(日) 01:51:44

言葉失ったわ…すごすぎ



※13282 :-:2008/02/24(日) 13:35:16

シリアスの最中に言葉が「中に誰も居ない」で吹いたwwww



※13304 :-:2008/02/25(月) 00:45:06

サイズオーバーで泣いたww
ググッたら最後まで読めて、嬉しくて泣いたwwww
伏線の張り方がSUGEEEEE!



※13317 :ichi:2008/02/25(月) 18:48:48

よくやったすばらしい
伏線SUGEEEEEEE!!



※13417 :-:2008/02/29(金) 22:17:17

言葉だから中に誰もいやせんよ、か
おもすれー



※13424 :-:2008/03/01(土) 19:31:02

言葉の「何故だ…どうしてたかが歌…で」
でMOTHER1のギーグを連想したが気のせいだろうか



※13448 :-:2008/03/02(日) 04:17:47

ジョジョネタも何気にはいってたな
作者お疲れ



※13514 :肉汁溢れる名無し:2008/03/03(月) 23:30:36

不覚にも・・・



※13523 :-:2008/03/04(火) 01:53:38

久しぶりに素直に感動した



※15858 :-:2008/05/09(金) 19:33:44

今度ARMSも読もう???



※19418 :-:2008/08/03(日) 21:05:46

翠星石が敵で金糸雀が味方か
逆だと思ったよ



※38152 :-:2009/08/10(月) 01:48:28

感動した!ローゼン創作の中でも一番かも!



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